タイムリーに読書感想文ってどう書くの? と生徒に質問を受けたばっかりなのですが、流石に本を読まなきゃ始まりません(笑)取り敢えず、今日、本屋さん行こうか! 行けば、少なくとも一歩は前進するよ。と、そろそろ読書感想文が重―く肩に圧し掛かっている皆に言いたいです。
読まなきゃ、何にも始まりません(笑)
どーしても、どーしても、どーしても読めない人は、ハリーポッター『賢者の石』を読みましょう(笑)そして、映画のDVDを用意して、最初の30分だけ映画を見て、その後、途中で(どんなに良い場面だったとしても! 特にお父さんお母さんにお勧めするぶった切る箇所はクディッチの試合の前です)DVDを止めて、本を手に取ってください。不思議なくらい、読めますから。
それから、仲間がいると人間頑張れるものです。
兄弟なら一緒に本を読んで、タイマーかけて20分だけ本を読む耐久ゲームをしてください。どっちが長く粘れるか。勝負です。良ければ、お母さんやお父さんに、時間測ってもらって、ノートに付けましょう。累積で5時間到達したら、アイス一個とか、賞品決めて頑張るのも良いです。
最初は努力で頑張っていた読書も、毎日続けていくと不思議なことが起こります。毎日20分も一ヶ月続けたら10時間です。それだけ続けると、不思議な事に読むのが段々楽しくなってくる。本が元々持っている面白さに気付くまでには、多少時間がかかる。けれど、気付けたら、それは一生あなたの宝と成ります。
その一歩を進む為に、是非本屋さんに行ってください。
さて、今日は高学年編。
ちょっと内容も重い、読み応えのある一冊を紹介したいと思います。
【奇跡はどうやって作られるのだろう?】
あらすじ
オーガストは普通の男の子。ただの普通の10歳の男の子。特別な能力なんてなにも無い。僕も、僕自身を普通だと思っている。
けど、周りの人には、ちょっと違うみたい。
僕は普通の男の子。ただし顔以外は。
生まれつき顔に障碍を持って生まれたオーガストは、幼いころから外に出る度に、色んな人からぎょっとされ、怖がられながら生きてきた。何度も手術をしなければならず、入退院を繰り返していくなかで、学校に通う体力的な余裕はなくなっていく。けれど、10歳の年。彼はお父さんのアドバイスを聞いて、学校に通うようになる。
最初は、予想していた通りだった。
ぎょっとされたり、怖がられたり、オーガストに会ったり、見たりしただけで、顔が崩れる。病気がうつる、なんてことを言って、露骨に嫌な顔をするやつも居た。そんなことは慣れているから、別に傷付かなかったけど、学校に行くのが少し、オーガストは嫌になっていく。
仲良くしてくれる子達も、最初に先生から「仲良くしてあげてね」って言われたから、しているだけなのだろう。そんな風に彼は思っていたけれど、一人だけ話していると楽しい男の子の友達が出来た。後、もう一人。へんてこな女の子。僕の話している内容が面白いらしい。顔じゃなくて? と思うし、話すんだけど、彼女は「別に」と気にした風も無い。
そんな中。ハロウィンの日がやってくる。
皆で被り物をして、学校中を歩き回る日だ。
この日ばかりは毎年大好きだった。
だって、誰も僕のことを驚いた様な目で見ない。皆がヘルメットみたいなお面を被っているから、誰に声をかけてもびっくりされない。
けど、そんな大好きな日に、最低のことが起こった。もう二度と、学校になんか行きたくない。友達なんかいらないって思える様なこと。
学校なんか、行かなきゃよかった。外に出なきゃよかった。そうすれば、こんなに痛い思いをすることも無かったのに……
ハロウィンなんか大っ嫌いだ。もう二度とハロウィンなんて来なければ良い。
けれど、そうして閉じこもったオーガストに、一通のEメールが届く。
これは一人のふつうの男の子の、生きるということをかけた、小さな。けれど、のちに大きな影響を周りに与える、勇気に溢れた戦いの物語。
【主人公オーガストを巡る人々の想い】
この物語を、「障碍を持った少年が、周りの温かい援助に支えられて、顔に対するコンプレックスといじめを乗り越えていく話」と説明すれば、一行で事足りるかもしれません。
来年から始める道徳の授業題材にも選ばれそうな内容そうに聞こえるかもしれませんが、これは全世界で300万部の大ヒットを飛ばした児童書です。児童書、という括りでこの本をカテゴライズするのが馬鹿らしいと思う程に、これは全ての人間関係に苦しんでいる人に読んでもらいたい濃い内容が、物語の形を通して鮮明に描かれています。
とくに、今現在。いじめを受け、人間関係に悩んでいる人。苦しんでいる人。そして、今もしかしたら誰かをいじめている人にも、読んでほしい。
この本の特徴として、先ず分厚い。ずっしりとしたボリュームのある421pにも及ぶこの本は、本嫌いの子供だったら一目見て眉を顰める厚みをしています。いますよね、分厚いだけで嫌な顔して、そっぽ向く子。逆に本好きになってくると、逆の現象も起きます。分厚いほどにワクワクするあの感じ。
けど、分厚いものが嫌いでも、この本だけは、ちょっとだけでも試しに読んでみて欲しいのです。
何故なら、この話。大体50ページくらいで、語り手が変わる物語。
主人公オーガスト。そしてオーガストの姉、姉の恋人、オーガストを一度裏切った友達、そして昔オーガストとも仲良しだった姉の友人。
区切りが良いし、章ごとに必ず疑問、というか、謎が出てくる。謎と言っても、身体は子供、頭脳は大人の某名探偵が出てきそうなやつでは無くて、もっと普通の、日常生活の中での疑問です。
あいつ、一体、なにを考えているんだろう……
何で、あんな風に言うの? 昨日まで仲良かったのにっ!?
どうして、あんな酷いこと平気で言えるんだろ……こっちはこんなに傷付いているのに……
解ってる筈だろ? あんだけ、言ったはずだしっ!! なのに、何でお前、やってないんだよっ!!
食い違いや擦れ違い。昨日まで優しかった筈の人が、いきなり起こしたとんでもないこと。信じていたはずなのに、何時の間にか居なくなっていた友人。解っている、伝わっているはずだと思っていた親が、いきなり理不尽な要求を突き付けてくる謎。
言ったはず、伝わったはず、考えているはず、解っているはず。全部、~はず、という言葉が付くことは、結局真相が解りません。
真相は闇の中。推理小説の中で有れば、探偵が謎を解いてくれますが、日常生活の中では、その謎が解けません。謎が解けない……いいえ。解っている筈、と思い込んで行動してしまうことによって、大抵人間関係は崩れていきます。
【人は思い込みの世界で生きている】
このワンダーというお話は、構成がとてもうまく出来ています。
オーガストの日常生活の中で、様々な謎が生まれてきます。何故、あんなこと言うんだろう。どうして、あんな風な瞳で、此方を見るんだろう。そうやって、傷付いたオーガストの謎を、次の章で視点が変わり、違う人の立場から物語が語られる事によって、どうしてそうなってしまったのかが、読者にはよく解ります。
話せば良いのに。怖がらなくても、そんなこと、彼は考えていないのにと、擦れ違いの謎が綺麗に解かれていきます。
そこで浮き彫りになるのは、完璧な存在の人間など、何処にも居ないと言う事。
そして、自分が考えている様な事を、相手は一切考えていない、という事。
言葉にして伝えなければ。相手に伝わる形にしなければ、言葉は意味が無く、伝えたとしても、相手に自分の思った通りに伝わることも無い、という、残酷な事実。
不可解な行動の理由が、きちんとその人の視線で語られます。疎遠になっていく関係に、話せば良いのにと思いながらも、登場人物たちは諦め、どうせ嫌われているのだろうと、自分の意見を伝えることすら、止めてしまう。
オーガストを嫌う人々にも、きちんと理由があります。そして彼らはオーガストが何を考え、その家族が何を感じ、何と戦っているのか。それを想像しようともしない。
そのなかで、オーガストは成長していきます。
人々の奇異の視線に晒され、嫌われ、怖がられ、顔を見られただけで悲鳴をあげられる。そんな生活の中。人に期待など何一つしないと思いながらも、彼は自分のこの容姿を受け入れてくれる人も存在するのだと、理解していく。
僕を好きになる人などいないと、思い込む道も選べたはずの彼は、友達に助けられ、姉や両親の愛情に支えられて、「そうじゃない人も居る」という事に、気付きます。そして、「僕を好きになってくれる人も居るんだ」と、前を向いて歩き始める。
僕を嫌う人も居る。悲鳴を上げる人も、居る。けど、嫌わない人も、僕の容姿や見た目じゃなくて、中身や話し方を好きになってくれる人も、ちゃんと居るんだと、その優れた観察力で学びます。
そして、僕は嫌われる存在で、普通ではない存在なのだと思っていたのは。思い込んでいたのは、自分自身なのだと、気が付いていきます。
【正しさよりも、親切を】
オーガストは学び続けます。そうして、自分がカッコいいって思える方を選ぼうと、決めます。
意地悪されたなら、意地悪をし返したくなる。それが当然の様に思えてしまう。正しいのは、自分だと思いたくなる。
だってあんな酷い事を言われたのだから。あんなに傷付けられたのだから、そうする権利が自分にあるはずだと、思いたくなる。間違っているのは、相手だと、叫びたくなる。
オーガストが嫌われるのは、彼の責任ではありません。誰の責任でも無い。寧ろ、彼は現実の理不尽さと戦ってきた、勇気ある、賢い少年です。
幾らでも周りを恨み、自分を恨み、運命を呪い、文句を言う事は出来た。自分に酷い事をした人間に、幾らだって復讐することも出来た。
けれど、オーガストはカッコいいと思える道を選びます。自分で、自分が好きになれる方法を。ちょっと良い事をしたと、胸を張って誇れる道を。
ヒーローになりたい。なら、成ろう。いつか、じゃなくて今この瞬間から、カッコいいと思える方を、選ぼう。
誰だって、一生に一度、皆から拍手を送られる瞬間があっていいはずだ。だから、それに相応しい行動を今、しよう。
そうして始めた小さな存在の戦いは、一年後。大きな実りを得ます。それこそ、オーガストが望んだ皆から拍手を送られる瞬間が、彼に訪れます。
【今この瞬間から出来る選択】
オーガストがした戦いは、誰にでも出来ることです。
自分が成りたい姿を思い描き、それに相応しい選択を常に選び続ける。そして、同時に自分を認めない存在をも、許す。そうなる人もいて、当然だと。
事実、物語の最後まで解り合えない人は存在します。相変わらず、オーガストを見ると悲鳴を上げる人も、病気がうつると忌み嫌う人も、存在し続ける。世界の残酷さは変わらない。けれど、彼は笑っています。それでも良い。解り合えない人も居るけど、解り合える人は、ちゃんと自分の傍に居ると、からりと笑って前を向きます。
障碍を持った子供の話を書く上で、残酷なまでに変わらない事実を描き出しながら、それでも笑顔を選ぶ姿を敢えて、書く。
まるで、作者が私達に問い掛けてくるようです。
「さぁ、あなたの選択は?」と。
恨むことも嫌う事も、諦めることだって出来る。でも、それと同じだけ、自分を幸せにする選択だって、私達は出来る。
だからこそ、何をどう選んでもいい。あなたの成りたいものになる選択をし続けてと、問いかけられている。
正しいことをするか、親切なことをするか、 どちらかを選ぶときには、親切を選べ。 ──ウェイン・W・ダイアー (本文より)
是非、この物語は、大人の方にも読んでほしい物語です。
読むのならば、部屋の中で読むことをお勧めします。外のカフェとか図書館とかで読むと、目が赤く腫れあがることになるので。(実体験です……ほ(笑))
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
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