枕草子「宮に初めて参りたる頃」の解説その2。
今回は、第2~3段落の途中までです。枕草子では、超絶カッコいい貴公子として登場する、伊周の訪れです。
この枕草子を読んだ後に、大鏡の伊周の姿を読んでみると、如何に清少納言がひいきで書いていたかが、よく解りますよ。結構容赦なく色んな人達のことをばっさばっさと批評していた清少納言ですが、自分の視界に(定子や伊周はとっっっても素晴らしい人達!)というフィルターが掛かっていた事には、気付けなかった。そんな、彼女のとっても人間らしい部分が垣間見える部分です。
今回の解説は、教育出版発行 古典B古文編の掲載部分となります。
【第2段落】
-1文目-
しばしありて、前駆高う追ふ声すれば、「殿参らせ給ふなり。」とて、散りたる物取りやりなどするに、いかで下りなむと思へど、さだに、えふとも身じろかねば、いま少し奥に引き入りて、さすがにゆかしきなめり、御几帳のほころびより、はつかに見入れたり。
(訳)
しばらくして、先払いの声が高く聞こえるので、「関白殿(道隆。定子の父)が参りなさったようですね。」と、女房たちが散らばっているものを取り片付けなどしているので、なんとかして局(自分の部屋)に退出したいと思うけれど、全く少しも身じろぎすらできないので、もう少し奥に引っ込んで――と言っても、やっぱり興味が惹かれて、定子様と道隆様の様子を見たいので――御几帳の隙間から、わずかにのぞきこんだ。
(はい、ミーハー精神満載な部分。道隆って、言ってしまえば時の最高権力者です。天皇の側近であり、藤原家の筆頭。清少納言からしてみれば、雲の上の人です。だから、そんな人と一緒な場所に居られるような立派な自分じゃないから、「逃げたいっっ!!帰りたいっっ!!」って思うんだけど、もう逃げるタイミングも無くて、居るしかないから、せめて邪魔にならないようにとすみっこに行こうとするんだけど、でもやっぱり様子を見たい!! っていう願望に負けて、カーテンの隙間からのぞき見するという……気分は芸能人を前にしたファンですね。)
(文法)
参ら/ ラ行四段動詞「参る」未然形(謙譲の意 参内する、参上する)
せ/ 尊敬の助動詞「す」連用形(未然形接続)
給ふ/ 補助動詞 ハ行四段 尊敬 「給ふ」終止形 (動詞=用言)
なり/ 伝聞・推定の助動詞「なり」終止形(終止形接続)
※超重要な二方面の敬語です。
発生状況は、三人の身分差があること。今回の三人は、清少納言、定子、道隆の三人です。
筆者である清少納言は、三人の中で一番身分が下です。
なので、道隆や定子の行動を書くときは、自然「尊敬語」を使うことになるのですが、道隆と定子も、明確な身分差が有ります。親子であっても、身分は中宮の定子が上。この場合、定子>道隆、と成ります。
なので、この二人の間に生じる行動は、身分差をつけなきゃいけない。つまり、道隆の行動を謙譲語で下げて、定子に敬意を示さなきゃならない。
でも、ここで困ったことが発生します。清少納言からしてみたら、道隆も高位の人。下げっぱなしじゃ、清少納言の立場がやばい。
だからこその、二方面の敬語です。
筆者が、道隆を下げて、定子を上げ、下げっぱなしじゃ道隆がやばいから、その後の尊敬語で、道隆を上げている。
ややこしや……と思うでしょうが、両方に気を使いたい日本人らしい気遣いの塊の様なこの敬語用法。解っちゃえば全部一緒です。楽です。ワンパターンです(笑)
謙譲+尊敬、の順番で、この組み合わせが殆ど。語っている文章を書いている筆者の身分が下。それより高位の二人の間に、明確な序列がある時に、発生する特殊用方。
今回の場合、
参ら⇒筆者清少納言が、道隆の行動を謙譲語で下げて、定子の立場を上げている。
せ/給ふ⇒筆者が、道隆の行動を尊敬語であげ、敬意を示している。
という構造となります。
いかで/ 副詞 なんとかして、どうにかして(それ以外にも、疑問・反語の意味もあり)
下り/ ラ行上二段動詞「下る」連用形
な/ 強意の助動詞「ぬ」の未然形(連用形接続)
ん/ 意志の助動詞「む(ん)」の連体形(未然形接続)
「なん」の品詞分解は、入試必須の大事なもの。
強意+意志としましたが、強意+推量=確述用法で、「きっと~だろう」でも良いです。接続をしっかりと見れれば、分割は簡単。丁寧に確認を。
え~ね/ 「ね」は打ち消しの助動詞「ず」の已然形。「ば」の上にあるので、判別しやすいと思います。え~ず、で「全く~出来ない」の意。
な/ 断定の助動詞「なり」の連体形
めり/ 推定の助動詞「めり」の終止形(連体形接続)
※本来終止形接続だが、ラ変型(形容詞、形容動詞変形含み)には、連体形接続
なるめり⇒なんめり⇒なめり(撥音便による省略形) となっているこの形。よくテストに出るので、見たことある人も多いのでは。
【第3段落】
-1文目-
大納言の参り給へるなりけり。
(訳)
大納言、伊周様が参りなさったのであった。
※けど、来たのは関白道隆ではなく、定子の兄の伊周さん。女房達が勘違いしちゃったんですね。
(文法)
参り/ ラ行四段動詞「参る」連用形
給へ/ ハ行四段補助尊敬動詞「給ふ」已然形
る/ 完了の助動詞「り」連体形(サ変未然形、四段已然形接続)
なり/ 断定の助動詞「なり」連用形(連体形接続)
けり/ 詠嘆の助動詞「けり」終止形(連用形接続)
※二方面の敬語+さみしいの「り」の合わせ技。更には滅多にない、詠嘆の「けり」のおまけつき。文法テストに出すために書かれたような文章です(笑)
二方面は、ここでは伊周を下げて定子をあげ、その後で伊周を上げています。
-2文目-
御直衣・指貫の紫の色、雪に映えて、いみじうをかし。
(訳)
伊周さまのお召しになっている直衣や指貫の紫の色が、雪の白に映えてたいそう美しい。
※当時の「紫」はとっても高貴な色。で、お金持ちの色でも有ります。(超高価だった)なので、清少納言にしてみたら、「紫だーーーっっっ!!」なテンションです。現代なら、超有名なブランド物着てた!!な感じかな。
【第2~3段落まとめ】
高貴な人間が二人出てきて、その二人に身分差がある時。更に、筆者の身分が下であるときは、必ず出てくる二方面の敬語。
更には、「さみしい」完了の「り」
普段は終止形にしか接続しない、「めり」の連体形接続
詠嘆の意味の「けり」
など、テストに出す為にこれ、書いたの??ってぐらい、この話はどの文もテストに出せる文章ばかりです。
文法の見直しや、練習にももってこいの部分なので、ゆっくりと分析を行ってください。やった分だけ、次が楽になります。
では、続きはまた明日。明日は明日でまた、テストによく出る部分が登場します。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
続きはこちら⇒枕草子「宮に初めて参りたる頃」その3古文解説
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