古文解説 枕草子『かたはらいたきもの』~気まずくて逃げ出したくなる瞬間~

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こんにちは、文LABOの松村瞳です。

今回は古文解説。久方ぶりに枕草子です。

枕草子の中でも、特徴的な段です。「かたはらいたきもの」の他にも、「すさまじきもの」「にくきもの」「ありがたきもの」「うつくしきもの」「うれしきもの」など、色々あります。

お題にそくして、清少納言が感じた、その感情に当てはまったものを並べていくだけの段。けれど、この羅列のような文章が、結構現代にも当てはまっていて読んでいくととても面白いです。

「かたはらいたし」とは、現代語で、「居心地が悪く、気づまりで、いたたまれない物」という意味。

要するに、「あー……早くここから、逃げたい……っていうか、なんて間の悪い場所に来ちゃったかな……」と内心溜め息吐いて逃げ出したくなる瞬間の事。

女性目線の指摘ですけど、結構当たってるなと思う場面もちらほらあるので、清少納言の観察力の鋭さが光る場面です。カーテン(御簾)の裏で、心おきなく覗き見(げふん)観察してた彼女らしいかなと。

では、本文いってみましょう。

口は災いのもとって、本当ですよね

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【かたはらいたきもの】

-本文-

①かたはらいたきもの。

②客人などに会ひてもの言ふに、奥の方にうちとけ言(ごと)など言ふを、えは制せで聞く心地。

③思ふ人の、いたく酔ひて、同じ言したる。

④聞き居たりけるを知らで、人の上言ひたる。

⑤それは、何ばかりならねど、使ふ人などだにいとかたはらいたし。

⑥旅立ちたる所にて、下衆どもの戯れ居たる。

⑦憎げなる児を、おのが心地の愛(かな)しきままに、うつくしみ、愛しがり、これが声のままに、言ひたることなど語りたる。

⑧才ある人の前にて、才なき人の、ものおぼえ声に人の名など言ひたる。

⑨ことによしともおぼえぬわが歌を、人に語りて、人の褒めなどしたるよし言ふも、かたはらいたし。

-現代語訳-

①気づまりなものごと。

②お客様が来ていて話している時に、家の奥の方で家族が遠慮ない意見を話しているのを、制止することができずに聞いている気持ち。

③大好きな人が、とっても酔っ払ってしまった時に、同じことをしている時。

④本人が聞いていることも知らないで、その人の噂をしていること。

⑤噂されている人がどれだけ高い身分でなかったとしても、使用人の身分の人でさえ、噂されているのを聞いていたら、居たたまれない。

⑥外泊した場所で、身分の低い人たちがふざけ合っている様子。

⑦かわいくない赤ん坊を、自分はかわいいと思うのにまかせて、かわいがり、愛おしく思い、その赤ん坊の声をまねてあやした様子を、他人に話している様子。

⑧学識ある人の前で、学のない人が、物知りぶった口調で、有名な人の名前などを挙げている様子。

⑨特に優れているとも思われない自分の歌を、他人に語って、その歌を誰かが褒めてくれたと話している様子も、いたたまれない。

 

-解説-

居たたまれない。気まずい。嫌だ。出来れば逃げ出したい!という状況。色々考えられますよね。

おもに人間関係上の問題ばかりが書かれていますが、これを見ると、平安時代も現代も、結局人間ってあんまり変わっていないんだなぁ、と思いますし、読んでて納得したり、ぷっ! と笑ったり。

端的に簡潔に短くまとめているのが、清少納言の凄いところ。現代風に訳してみると……

②先輩がせっかく遊びに来ているのに、台所から家族が大声でテレビを見て笑っている声が筒抜けになっている状態。

お母さん、ちょっとは空気読んで黙ってよ!!!って、言いたくなるけど、先輩の手前動けないし、多分「静かにして」という声すら筒抜けだと思うと動けないですよね……壁が薄くて筒抜けって、結構辛い……

③彼氏が忘年会などでめちゃくちゃに酔っぱらって帰ってきて、何でか知らないけど同じことばっかり繰り返している様子。

酔っぱらうと、どうして意味のない行動を繰り返すのか。
おんなじことばっかり話したり、何故かひたすらにチーズ割いてみたり、空のコップをひっくり返したり元に戻したり。好きな人でも、そんなことを繰り返されると100年の恋も冷めると言うかナンと言うか……「はぁっ……」って、冷たーい視線を向けながら、溜め息吐いてる清少納言が見えるようです(笑)

④噂話を、本人が聞いているのを知らずにしている様子。

これ、なぜか自分の噂話って耳に入ってきますよね。で、その噂されている人の目の前に自分がいたとしたならば……

噂って、大抵悪口です。それを聞いて、顔色を変えたり、傷付いている人の目の前にいたとしたならば……居たたまれない。

⑤社長でなくとも、平社員が噂されていても、気づまりだ。

噂されている人。その人が身分が高く、有名な人ならばある程度は仕方がないのかもしれないけれど、平社員であろうと一般人であろうと、この状況はきついよね。身分関係ないよね、と言っています。

なので、人の噂話はしない方が良い、とも清少納言が言っているようにも感じます。口は災いの元。これは真理ですよね。

⑥ホテルで、若い人たちが浮かれて騒いでいる様子。

身分が低い、というのが現代にはないので、若い人々、としてみました。当時、旅行が出来るのは本当に限られた人々です。そして、京の都以上に発展している場所はなかったので、京の都から外れた場所は全て田舎で未発展の場所。要するに、洗練されていない場所、という事です。そこで触れ合う人々は、当たり前ですが清少納言が普段接している中宮定子や一条天皇と比べれば、下衆にも成りますよね……(そこまではっきり言っちゃうのもどうかと思うけど……汗)そこで、居るだけならまだいいけど、騒いでいるのは早く京の都に帰りたいと気まずくなっているのです。

⑦自分の赤ちゃんは誰でも可愛いけれど、いくらかわいくても赤ちゃん言葉であやしたエピソードを延々聞かされると、うんざりする。

憎げ=可愛くない、とどきっぱり言っていますが、確かに赤ちゃん言葉であやしている様子を目の前で再現され、しかもそれが続くとしたならば、まぁ、逃げたくなる気持ちも分からなくはない。

⑧専門家や教授の前で、専門家でもない人が物知り顔で有名な学者の話をすること。

能ある鷹は爪を隠すと言いますが、雄弁は銀、沈黙は金という言葉の意味を改めてかみしめたくなります。

⑨別にそんなに綺麗に撮れているわけでもないのに、写真をSNSに挙げて、「こんなにいいね!貰ったんだよ~」と自慢してくる話を聞かなきゃならないのは、本当に逃げたくなる。

歌を作るって現代では中々ないので、写真にしてみました。「いいね」をどれだけ貰っていると言われても、写真がそんなに良くなければ、「ふーん」で終わりますよね。

特に歌に厳しかった清少納言からしてみたら、「そんなこと自慢する暇があるなら、もっと勉強したら?」と言いたかったのかも。「誰かに褒められるために歌を作っているの? 貴方は?」と、鼻で笑いながら言ってそうです。(あー、怖いっっ)

【まとめ】

全ての内容で、ポイントになっているのは「会話」です。

会話の基本は、相手に話してもらうように努めること。傾聴、という言葉が示すように、相手の人を尊敬して、敬意をもってその内容に耳と心を傾ける事です。

けれど、相手への敬意も何もなく、悪口を言い合ったり、空気を読まなかったり、相手の教養の深さも知らずに自慢したり、相手の興味が失せているのに延々と同じ話をし続けたりする人は、相手をしているこちらが逃げたくなるぐらい、居づらくなるから、気を付けてほしいと言っているんでしょう。

自分勝手に行動するな!! と言っているわけですが……

これだけ読んでいると納得して首を縦に振りたくなるんですけど、「枕草子」を全部読むと、色々突っ込みどころが出てきます。

「おいっ!! あんただって『かたはらいたき』こと、してるじゃないか!!」

人のふり見て我がふり直せ。。。。

清少納言でも、この言葉は、実践するのが難しかったんでしょうね。

ここまで読んで頂いてありがとうございました。

 

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