伊勢物語 東下り 解説その1

伊勢物語

本文 黒太字 オレンジ色は文法解説部分。
〈訳〉現代語訳
〈文法〉品詞分解・説明
〈解説〉解説と言う名のツッコミ。背景、状況説明など

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【本文 第1段落】

-1文目-

昔、男ありけり

〈訳〉
昔、ある男がいた。

〈文法〉
あり ラ変「あり」の連用形
けり 過去の助動詞「けり」の終止形

〈解説〉
伊勢物語の定番の始まり方です。
このある男のモデルが、在原業平と言われています。
古文や漢文の始まりは、いつも主人公の説明から。

-2文目-

その男、身をえうなきもの思ひなして、「京にはあらじ。東の方に住むべき国求めに。」とて行きけり。

〈訳〉
その男が自分を、無用のものであると思い込んで、「京にはおるまい。東国の方に、住みよい国を探しに行こう。」と思って、出かけて行った。

〈文法〉
えうなき/ 形容詞ク活用「えうなし」の連体形
もの/ 体言

思ひなし/ サ行四段動詞「思ひなす」の連用形
て/ 接続助詞「て」(連用形接続)

あら/ ラ変動詞「あり」の未然形
じ/ 打消意志の助動詞「じ」の終止形

住む/ マ行四段動詞「住む」の終止形
べき/ 適当の助動詞「べし」の連体形(終止形接続)
国/ 体言
求め/ マ行下二段動詞「求む」の連用形
に/ 格助詞(※動詞の目的は、連体形接続)

行き/ カ行四段動詞「行く」の連用形
けり/ 過去の助動詞「けり」の終止形

〈解説〉
自分を無用の者と思い込む、と言うことは、その前提として何が起こったんでしょうね。教科書的に考えると、その前には「芥川」なので、駆け落ちが失敗したのを悔んだか(相当噂になって、京都にいられなくなったか……)、妻にフラれて、もうどうでも良くなったか……
「東」を目指して旅立つって、とっても良いことのように思われますが……平安期って、今とはちょっと事情が違っています。ええ、本当に。

-3文目-

もとより友とする人一人二人して行きけり。

〈訳〉
以前から友人であった人、1人、2人とともに出かけて行った。

〈文法〉
行き/ カ行四段動詞「行く」の連用形
けり/ 過去の助動詞「けり」の終止形

〈解説〉
で、一人で行くのはさびしいからと、おんなじような境遇の友人を誘って、東に行くわけですね。
この時は、戻ってくるつもりは全くなかった、はずです……うん、多分……

-4文目-

道知れる人もなくて、惑ひ行きけり。

〈訳〉
道を知っている人もいなくて、迷いながら行った。

〈解説〉
はい、旅のしょっぱなから迷走します。
「地図は?」と思うかもしれませんが、この時期、正確な地図は殆どありません。しかも、紙はちょう高級品。地図なんかに使うことは出来ません。
なので、迷いまくっています。
一応貴族である在原業平がモデルなので、お付きの人々がいるはず。
いやだ……こんな行くあてもない旅に付き合わなきゃならないの……

-5文目-

三河の国、八橋といふ所にいたりぬ。

〈訳〉
三河の国、八橋という所に到着した。

〈文法〉
いたり/ ラ行四段動詞「いたる」の連用形
ぬ/ 完了の助動詞「ぬ」の終止形

〈解説〉
そして、なんとか三河までたどり着きました。
今でいう、愛知県の東側です。
結構頑張った!!お付きの人たちが(笑)

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-6文目-

そこを八橋といひけるは、水行く川の蜘蛛手なれば、橋を八つ渡せるによりてなむ、八橋といひける。

〈訳〉
そこを八橋というのは、水の流れる川が、蜘蛛の足のように八方に流れているので、それぞれの流れに橋を八つ渡してあったことから、八橋というのだった。

〈文法〉
いひ/ ハ行四段動詞「言ふ」の連用形
ける/ 過去の助動詞「けり」の連体形

なむ、/ 係助詞
八橋/ 体言
と/ 格助詞
いひ/ ハ行四段動詞「言ふ」の連用形
ける/ 過去の助動詞「けり」の連体形(係助詞の結び)

〈解説〉
地名の「八橋」が何故そのような名前になったのかを、解説しています。
八方向に流れている川にそれぞれ橋を渡した、そのままの情景を名前にした、と言うこと。
旅行の時に初めて訪れた場所についていろいろ知りたくなる心境ですね。

-7文目-

その沢のほとりの木のかげに下りゐて、乾飯食ひけり

〈訳〉
その沢のほとりの木の陰に馬から下りて腰を下し、乾飯を食べた。

〈文法〉
下り/ ラ行上二段動詞「下る」の連用形
ゐ/ ワ行上一段動詞「居る」の連用形
て/ 接続助詞(連用形接続)

食ひ/ ハ行四段動詞「食ふ」の連用形
けり/ 過去の助動詞「けり」の終止形

〈解説〉
乾飯は、当時のインスタント食品です。
現代のように油で揚げたものではなく、陽で乾燥させたもの。
お湯や水で戻して食べるのは、今と一緒ですね。
1000年前も現代も、インスタント食品の発想が同じなのは、面白い。
気分的には、カップラーメンでお昼ごはん、って感じです。

-8文目-

その沢にかきつばたいとおもしろく咲きたり

〈訳〉
その沢にはかきつばたの花がたいそう美しく咲いていた。

〈文法〉
おもしろく/ 形容詞ク活用「おもしろし」の連用形
咲き/ カ行四段活用「咲く」の連用形
たり/ 存続の助動詞「たり」の終止形(連用形接続)

-9文目-

それを見て、ある人いわく、「かきつばたといふ五文字を句の上に据ゑて、旅の心をよめ。」と言ひければ、よめる。

〈訳〉
それを見て、ある人の言うことには、「かきつばた、という5文字を各句の初めに置いて、旅の心を詠みなさい。」と言ったので、歌を詠んだ。

〈文法〉
言ひ/ ハ行四段動詞「言ふ」の連用形
けれ/ 過去の助動詞「けり」の已然形
ば、/ 接続助詞・原因(已然形接続)
よめ/ マ行四段動詞「よむ」の已然形
る/ 完了の助動詞「り」の連体形※(さみしい完了の「り」)

〈解説〉
和歌は、5・7・5・7・7という、五つの部分で構成されています。

その頭の部分の文字を、か、き、つ、ば(は)、た、で始めてみよう、という言葉遊びです。和歌で、遊んでいるんですね。あいうえお作文みたいな感じです。

-10文目 和歌①-

唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ

とよめりければ、みな人、乾飯の上に涙落としてほとびにけり。

〈訳〉
日ごろ着なれている唐衣のように、馴れ親しんだ妻が都にいるので、はるばるとやってきた旅をしみじみと思うことだ。

と詠んだので、そこにいた皆は、乾飯の上に涙を落して乾飯がふやけてしまった。

〈文法〉
き/ カ行上一段動詞「着る」の連用形
つつ/ 接続助詞
なれ/ ラ行下二段動詞「なる」の連用形 ※「馴れ(馴れ親しんでいる)・褻れ(日常の意)」の掛け言葉
に/ 完了の助動詞「ぬ」の連用形
し/ 過去の助動詞「き」の連体形

つま/ 体言  ※「妻・褄(着物の端っこの意味)」の掛け言葉
し/ 副助詞
あれ/ ラ変動詞「あり」の已然形
ば/ 接続助詞・原因

き/ カ変動詞「来」の連用形
ぬる/ 完了の助動詞「ぬ」の連体形

し/ 副助詞
ぞ/ 係助詞
思ふ/ ハ行四段動詞「思ふ」の連体形(係助詞結び)

〈解説〉
掛け言葉が満載の和歌です。
一つの言葉で、二つの意味をかけると言う、ことば遊び。
それを全て和歌の訳に入れるよう、気を付けて訳すこと。
この伊勢物語は、一つのエピソードに対して、和歌が必ず存在します。
なので、話の内容をしっかりくみ取って詠むと、スムーズに詠みとける。

この場合、意気揚々と京を出てきたけれど、段々離れれば離れるほど寂しくなって、思い返していると涙があふれてくる、ということです。

【第1段落まとめ】

貴族の感傷旅行の道中日記……というと身も蓋もないですが、「自分なんか無価値だ……」なんて思うって事は、どれだけ嫌なことがあったのか……

伊勢物語の流れから察するに、恋物語ですから、要するに女性に降られたか、妻に見放されたかのどっちかです(笑)

「ここは、自分の失恋を知っている人も沢山いる。息苦しいし、辛い……なら、違う場所に行こう!!」と意気揚々と旅立つんですが、大概そういう旅って、上手くいかないものです。

旅出て早々に、都を恋しがって泣きが入る、というシーンです。身も蓋もないですが、なんとなくイメージがわくと親近感出ますよね(笑)

さて、この感傷旅行。続きはどうなるのか。

続きはまた明日。

ここまで読んで頂いてありがとうございました。

つづきはこちら

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