枕草子「宮に初めて参りたる頃」の解説その1です。
【ざっくりあらすじ】
清少納言が一条天皇の妃である中宮定子に仕えるようになって、まだ間もない頃のお話。
田舎者が都会に行くと、どうしてもきょろきょろしちゃいますよね。現代的に考えると、地方からいきなり東京のど真ん中に出てきたようなものです。周囲には物凄く綺麗な人達が沢山いて、更に自分がお世話をするお姫様は、とっても綺麗な、しかも優しい人。
目の前に座っているだけで緊張しちゃうんですが!! と、震えながら仕事をしている様子の話です。
あー、定子さま、とっても優しいし、綺麗!! お兄様の伊周さまもカッコいいし、こんな人達、夢の中にしか居ないと思ってたんだけど、現実にちゃんと居るんだ!! と少々ミーハー気味な内容になってます。
では、本文解釈をしましょう。
【第1段落】
-1文目-
宮に初めて参りたる頃、ものの恥づかしきことの数知らず、涙も落ちぬべければ、夜々参りて、三尺の御几帳の後ろに候ふに、絵など取り出でて見せさせ給ふを、手にても、えさし出づまじうわりなし。
(訳)中宮定子様のいらっしゃる御所に初めて参内していたころは、なんとなく恥ずかしいことがたくさんあって、涙もこぼれそうな(くらい恥ずかしいことがつらかった)ので、夜ごとに参内して、三尺の御几帳の後ろにお仕え申し上げていると、定子さまは絵などを取りだしてお見せくださるが、私は手さえまったく差し出すことが出来ないほど緊張していて、恥ずかしくてどうしようもないことでした。
(文法)
参り ラ行四段動詞「参る」連用形 謙譲語で、意味は参内する。
(※尊敬語の意味もある。尊敬の場合は、意味は召しあがる、なさる)
落ち/ タ行上二段動詞「落つ」連用形
ぬ/ 強意の助動詞「ぬ」終止形(連用形接続)
べけれ/ 推量の助動詞「べし」の已然形(終止形接続)
ば / 順接の確定条件の接続助詞「ば」(已然形接続)
(ぬべければ⇒確述用法 ~してしまいそうだ、きっと~だろう、の意。
めべし、つべし、てむ、なむ、が確述用法の代表的つながり。
強意+推量の意味の組み合わせになるので、覚えるととっても楽)
文法的なポイント。連結部分は、必ず形が下に続く言葉の接続と、リンクしていることが絶対です。これが乱れているのは、文法解釈が間違っているので、細かいところですが、気を配りましょう。
「ば」は、上が已然形か未然形のどちらかしか来ません。
「べけれ」は「べし」の変形表のなかで、已然形の形。
「べし」は終止形にしか接続しません。
「ぬ」は終止形。そして、接続は連用形です。
そうやって、一つ上の言葉の変形と、しっかり結びついているかどうかを確認していくと、文法が解りやすくなります。
候ふ (さぶらふ) 敬語で、ハ行四段の連体形。意味は、謙譲語でお仕え申し上げる。
(※丁寧で、あります、です、ます、の意もあり)
見せ/ サ行下二段動詞「見す」の未然形
させ/ 尊敬の助動詞「さす」の連用形(未然形接続)
給ふ/ 尊敬の補助動詞 ハ行四段「給ふ」の連体形(補助動詞=用言)
(※「給ふ」は 四段=尊敬 下二=謙譲 で、活用の種類で意味が変ります)
せ+給ふ、させ+給ふ、の組み合わせは、両方とも尊敬+尊敬になる可能性がとても高いです。せ、させ、が使役の意味合いになることは、滅多にないことです。
え/ 副詞 「え~ず」「え~打ち消し語」で、全く~ない、の意。
さし出づ/ ダ行下二段「さし出づ」の終止形
まじう/ 不可能の助動詞「まじ」の連用形(まじく⇒まじう ウ音便)(終止形接続)
-2文目-
「これは、とあり、かかり。それが、かれが。」などのたまわす。
(訳)定子さまが「これは、それそれであり、これこれで。それがこうで、これがこうで……」などと、おっしゃってくれる。
(文法)
のたまわす サ行四段動詞 「のたまわす」終止形
-3文目-
高坏に参らせたる大殿油なれば、髪の筋なども、なかなか昼よりも顕証に見えて、まばゆけれど、念じて見などす。
(訳)高坏に灯し申し上げた大殿油(とってもいい油)であるので、とても明るくて、髪の毛の筋などもかえって昼よりはっきりと見えて、恥ずかしいけれど、我慢して見などしている。
(※ 自分の容姿にコンプレックスを持っている清少納言からしてみたら、超綺麗な定子の前で、はっきりと自分の姿が見えてしまうほど明るい照明に照らされている状況は、物凄く恥ずかしい。けれど、せっかく定子が見せてくれるのだからと、必死に逃げたくなるのを我慢して、絵を見てます。)
-4文目-
いと冷たき頃なれば、さし出でさせ給へる御手のはつかに見ゆるが、いみじう匂ひたる薄紅梅なるは、限りなくめでたしと、見知らぬ里人心地には、かかる人こそは世におはしましけれと、驚かるるまでぞまもり参らする。
(訳)とても寒い時期であったので、定子様の差し出しなさった御手が、わずかに見えるのが、たいそう美しい色つやをした薄紅梅(薄ピンク)色であったのは、この上もなく美しいと、宮廷のことなどは何一つ知らない田舎者の気持ちには、このような素晴らしい方がこの世においでになったのだなぁと、はっと驚くほどまでに見つめ申し上げました。
(文法)
頃/ 体言
なれ/ 断定の助動詞「なり」の已然形(体言接続)
ば/ 接続助詞 順接の確定条件 ~ので(已然形接続)
(※助動詞「なり」は、伝聞推定と、断定の二つの意味がありますが、上の言葉の接続が、終止形接続か、体言(連体形)接続かで判断をすること)
させ/ 尊敬の助動詞「させ」の連用形
給へ/ 尊敬の補助動詞 ハ行四段動詞「給ふ」已然形
る/ 完了の助動詞「り」の連体形(四段動詞の已然形・サ変動詞の未然形接続)
(※させ給ふ、が、尊敬+尊敬であるのは、上に書いたとおり。完了の「り」は、サ未四已(さみしい)の「り」は、完了の意味のやつです。「さみしいりかちゃん」と覚えましょう。サ変の未然形、四段の已然形に接続する「り」は、完了の意味)
こそ/ 係り結び助詞。結びは、已然形。意味は強意。
は/ 格助詞
世/ 名詞 体言
に/ 格助詞
おはしまし/ サ行四段動詞「おはします」で、連用形
けれ/ 詠嘆の助動詞「けり」の已然形(係助詞の結び)(連用形接続)
(※ここの、「けり」は、過去の助動詞では無く、珍しく詠嘆の意味です。~だなぁ、と定子の美しさにうっとりしている清少納言の気持ちが良く出ていますね。過去で訳さないように、気を付けて)
【第1段落まとめ】
宮中での描写が多いので、敬語の表現がとても多く、「せ給ふ」「させ給ふ」の「尊敬+尊敬」や、参る、候ふ、などの謙譲語が出てきます。
慣れればそんなに難しくも無いし、何度も出てくる表現なので、とっとと覚えてしまいましょう。解らない、を解る様になると、とても楽になります。
文法でのチェックは、
確述用法。つべし、めべし、てむ、なむ、は、強意+推量になる。
「さみしいりかちゃん」の完了の「り」
係り結びの「こそ」など、基礎的なものも沢山出てきます。
特に、接続助詞の「ば」は今年(2018年)のセンター試験にも古文で出題されたものなので、要チェック。
覚えなくてもいいので、何度も読んで、判断をしてみてください。文法表を必ず横に置いて、確認をしながら、何度も試してみる。
そうしているうちに、勝手に判断できるようになってきます。
今日はここまで。
続きはこちら⇒枕草子「宮に初めて参りたる頃」その2古文解説
ここまで読んで頂いて、ありがとうございました。
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