恐怖!女が⚪︎⚪︎したら鬼確定〜古文の鬼と女に関するアレコレ〜

節分解説のエントリーで、鬼=隠人。(おんひと)つまり、人が認識できる世界から隠れた部分で生きている人間のような形をしたもので、得体の知れないものとして、括られているものです。

その姿は、長身で身体が大きく、また頭の上にツノや牙が生え、一種異様な風貌をしています。赤い肌や青い肌をしていたり、酒呑童子みたいに絶世の美少年、なんていう鬼も居たりして。(美形って絶対に物語の中に出てきますよね、不思議)

更には子供を攫って食べていたけど、お釈迦様に諭されて子供を守る神様になった鬼子母神など、鬼にまつわるお話は後を絶ちません。

それぐらい、異形のものに対する恐怖や恐れ、更には人ならざるものに対する興味関心や、好奇心があったからこそ、こんなにも色鮮やかに描き出された文献が多いのでしょう。

で、何故か不思議なんですけど、この鬼と女性。古典の世界では密接に繋がっていたりします。

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【恐怖 女が⚪︎⚪︎したら、鬼確定】

今昔物語や宇治拾遺物語などの、日本国内はもちろん、中国やインドに伝わる昔話を集めた説話集はとても読んでて面白いものなのですが、その中でもちょっとホラーな内容のやつがあります。

ある男が、夜の街を馬で家路についていました。
夜は魔物が出るというし、早く帰ろうとしたら、橋の麓になぜかとても綺麗な着物を羽織った女が居ます。
訝しんでその前で止まると、道に迷って困っております。
「どうか、後ろに乗せていただけませんか?」とお願いされ、思わずその願いを聞き入れようとするのですが、待てよとここで理性の声が聞こえます。
こんな夜中に橋の上にいる女って、どうなんだ……? と。
で、直感に従って無視して過ぎ去ろうとしたら、その女がその場ですくっと立ち上がって走って追っかけてきた。
男は「鬼だ!!」と顔色を変えて馬を走らせた。そしたら鬼がとんでもない速さで追いかけてきて、馬のお尻をどうにか捕まえようとする。
だが、馬のお尻には油が塗ってあったので、その爪は滑って捕まえられなかった。男は脂のおかげでなんとか命が助かった、というお話。

馬のお尻に油なんか事前に塗るのかな?と疑問に思ったりもするのですが、まぁそこはお話ですものね。

けれど、ここで重要なのは、平安~鎌倉期の女性が立って走ったら、鬼確定、だと言うことです。

【古文世界での女性のタブー】

平安期。身分の有る女性は、着物を何枚も重ねて着ています。十二単ですね。

何故、そんなにも着物を重ねたかというと、当時着物は超高級品でした。まぁ、今で言うと超高級ブランド品のイメージ。それを惜しげもなく、12枚も重ねて身につける事が出来ると言うのは、わっかりやすく富の象徴でもあったんですね。

ちなみに、平安期は太っている事が美の代名詞でもありました。女性だけでなく、男性もです。(太れる=食に困っていない=富の象徴=美)

そう考えると、光源氏の誕生のシーンで、「珠のような」と書いてある描写も、「丸まると太っていた子どもだったのかなぁ~」とか思ってしまいますよね(笑)

そして、現代とはあまりにも違う生活を女性がしていました。

男性と逢うことは基本的にタブーとされ、部屋の奥に閉じこもり、日光を浴びる事も、立って運動するなんて考えることすらなかったでしょう。

12枚もの着物を着た女性。身分の高い女性は、基本両足で立つ、ということがありません。移動は全て膝立ちで、立って歩くということは、それだけではしたない行為とされていたのです。

なので、古文の中で登場する女性。大概御姫様や高貴な身分の人達ですが、その女性たちが立った、とか、歩いた、または、走ったなんて表記されていた場合、その女性は精神的に狂っているか、鬼が変化したものであると、確定されます。

【女性と繋がっている鬼】

不思議なのですが、普通の男性が鬼に変化する、というお話は古文の中に見当たりません。鬼が変化するのは、なぜか女性です。

おとぎ話に出てくる鬼は、大概男性の姿をしています。女の鬼。鬼女で有名な長野県戸隠の紅葉だったり、鈴鹿山の鈴鹿御前ですが、数的に男性の方が圧倒的に多い。

更に言うのならば、普通の男性が怒りや憎しみで鬼に変化する話は目立ったものが思いつきません。けれど、女性が鬼に変化する、ということを考えると、様々な風習に残っていることが思いつきます。

例えば、角隠し

日本古来の結婚式で、白無垢と呼ばれる真っ白な着物を花嫁は身に付けます。西洋ならば、ウェディングドレスです。その白無垢の定番の装いは、頭をすっぽりと隠す角隠し。

ちょうど鬼に角が生えている頭の部分を隠すように、白い帽子で覆われています。

これは、女は嫉妬に狂うと鬼に変化するという伝承があるために、鬼に変化しないように、一種のまじないをかけている意味合いがあると言われています。

【鬼の研究】

そんな、日本古来の女性と鬼の関係を調べた、歌人がいらっしゃいます。

馬場あき子著 「鬼の研究」

過去、センター試験の評論にも取り上げられたことがある作品です。古文や和歌、そして能楽や狂言などの演目として出てくる鬼の特徴を調べ、まとめたこの本。

その中で、女性が鬼ととても近しい存在であるということを、指摘されています。

男性に比べ、女性はコミュニケーション能力が高いとされていますが、それは反面、感情表現が豊かであり、怒りや恨み、嫉妬、苦しみや悲しみも同じ様に強く感じてしまう生きもの。

その感情が暴れて、鬼に変化する。そんなおとぎ話がとても多い。

おとぎ話。伝承話や土地に残る風習で残っているということは、その元となった何かしらの出来事があったということです。悲しい出来事や辛い出来事に心が乱れ、普段とは違う様子になってしまった女性たち。それが、もしかしたらこの鬼の原型となっているのかもしれません。

可愛いけれども、中身までそうとは限らない。

そんな女性の本質を、物語を書いていた女性たち自身が一番良く解っていたのかもしれません。

【まとめ】

テスト的な基礎知識として。

平安時代で女性が立つ、走る、などと表記されたら、鬼が人を食らうために女性に変化をしていると思って、間違いないです。

是非、読解のヒントにしてください。

余談。漢文での鬼は、日本語の鬼と同じ存在ではなく、鬼=亡くなった人の魂=お化けの意味です。混同しないように。

ここまで読んで頂いてありがとうございました。

 

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