オタクはこうして出来あがる? 更級日記解説「東路の道の果て」その1


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創作物、所謂フィクションや二次元の世界に過度に埋没してしまう人って、現代人だけの特徴かと思ったら………実は、古典の世界にも居たんです。ちょーっと粘着質で、ちょーーーっと思い込みが激しくて、ちょおぉーーーーーっっと執着心が強い、奇行(?)が目立つ女の子の日記。今回から、菅原孝標女(すがはらのたかすゑのむすめ)が書いた、「更級日記」の解説をします。

  • 東路の道の果て(このページです)
  • 継母との別れ
  • 源氏の五十余巻

の3つを順に解説していきます。

いきなり子どもが「等身大」の仏を作ったら……貴方はどうしますか?

では、最初の部分から読んでいきましょう

 本文 黒太字 オレンジ色は文法解説部分。
〈訳〉現代語訳
〈文法〉品詞分解・説明
〈解説〉解説と言う名のツッコミ。背景、状況説明など

【本文 第1段落】

-1文目①-

東路の道の果てよりも、なほ奥つ方に生ひ出でたる人いかばかりかはあやしかりけむを、

<訳>
東海道の道の果てである常陸の国(現在の茨城県)よりも更に奥まった田舎である上総の国(現在の千葉県中央部)で育った人間(私)は、どんなに田舎くさい娘であったと思うのに、

<文法>
生ひ出で / ダ行下二段動詞「生ひ出づ」の連用形
たる / 完了の助動詞「たり」の連体形
人 / 名詞(体言)

いかばかり/ 副詞
か/ 係助詞(疑問)
は/ 係助詞
あやしかり/ 形容詞ク活用「あやし」の連用形
けむ/ 過去推量の助動詞「けむ」の連体形(係助詞「か」の結び)

<解説>
茨城県や千葉県が道の果て? 田舎? と思うかも知れませんが、平安時代は京の都が都会であり、京に近ければ近いほど、都会。遠ければ遠いほど、田舎とされていました。
そして、まだ東北方面や北海道まで朝廷の支配権が無い時期でもあったので、主人公の10代の女の子から考えたら、「ああ、なんて田舎なんだろう……」と溜め息を吐きたいような場所だったと言うことです。
ちなみに、何故こんな場所に住んでいたかと言うと、お父さんの仕事の為です。「菅原」という姓からも解るように、この筆者はあの「菅原道真」の子孫です。なので、藤原家から迫害を受けていて、任地もこんな田舎の場所に飛ばされていたんですね。
(※「道真の怨霊にたたられる!!!」なんて怯えていたんだから、子孫優遇すればそんなに怯える必要もなかったはずなのに……なんてツッコミが入りますが、それはまた別の話)

-1文目②-

いかに思ひ始めけることにか、世の中に物語といふもののあんなるをいかで見ばやと思ひつつ

<訳>
どうやってそんなことを考えるようになったのか。この世の中に、物語と呼ばれるものがあることを知り、何とかしてそれを読みたいと思いながら、

<文法>
いかに/ 形容動詞ナリ活用「いかなり」の連用形
思ひ始め/ マ行下二段動詞「思ひ始む」の連用形
ける/ 過去の助動詞「けり」の連体形
こと/ 名詞(体言)
に/ 断定の助動詞「なり」の連用形
か/ 係助詞(疑問)(←結びの省略)
※本来、「いかに思ひ始めることにか、あらむ」となり、「む」が推量の助動詞の連体形で結びとなる。

あん/ 「ある」の撥音便  ラ変動詞「あり」の連体形
なる/ 伝聞の助動詞「なり」の連体形
を/ 格助詞

いかで/ 副詞
見/ マ行上一段動詞「見る」の未然形
ばや/ 願望の終助詞(未然形接続)
と/ 格助詞
思ひ/ ハ行四段動詞「思ふ」の連用形
つつ/ 接続助詞(連用形接続・動作の並行)

<解説>
田舎だったので、娯楽も殆どありません。
当時、娯楽の最先端は仮名文化全盛の、物語でした。現代で言うのならば、漫画とか、アニメとか、映画とか、ゲーム。それぐらいの娯楽性の高い存在でした。
平安時代、真面目な文章は漢文。
楽しみや面白くて読むものは、平安貴族たちが紡ぐ物語だったわけです。けれど、コピーや印刷機もない時代。どうやって皆、作者が書いた物語を読んでいたのか。それは、手でコピーしていたんです。作者が書いたものを、傍で読んでいた人が手元に置いておきたいと、借りて、手で全て写す。それをまた違う人が、手で写す。そうやって、広がって行ったわけです。
だから、主人公も「誰か写し持っている人居ないの???」と手元にない事をとても悔しがっていた。

-1文目③-

つれづれなる昼間、宵居などに、姉・継母などやうの人々の、その物、かの物語、光源氏のあるやうなど、ところどころ語るを聞くに

<訳>
何もすることがなくて暇な昼間や、夕方から夜の家族のだんらんの時間などに、姉や継母のような(物語ことを知っている)人々が、その物語の内容、あの物語の下り、特に光源氏の出てくる物語の展開などを、部分部分ではあるけれど語ってくれるのを聞くと、

<文法>
姉・継母/ 名詞
など/ 副詞
やう/ 名詞
の/ 格助詞
人々/ 名詞
の/ 格助詞

ところどころ/ 名詞
語る/ ラ行四段動詞「語る」の連体形
を/ 接続助詞
聞く/ カ行四段動詞「聞く」の連体形
に/ 格助詞

<解説>
でも、実物が無いのにどうして物語に興味を持ったのか。
それは、身近で一緒に過ごしていた継母や姉が、まだ京の都に居たころに読んでいたからなんですね。
主人公本人は小さすぎたか、まだ生まれていなかったのか。全く記憶にはないのですが、それでも姉や継母達が「あれ、面白かったわよね」と話しているのを聞いて、興味を持ち、「それ、最初から話して!!」とお願いしていた。
今でもそうですよね。小さい子が興味を持つのは、傍に居る大人がしている事や、話している事。もちろん、一概には言えませんが、周囲の全てから影響を受けて、興味を持つわけです。
主人公の家柄は、菅原一族。学問で名を馳せた有名な一族です。
なので、女性たちも教養が高かったのでしょう。たくさんの物語を読んでいたはずです。けれど、人の記憶は薄れるもの。実物が無いのに、正確には全てを話す事は出来ません。

-1文目④-

いとどゆかしさまされど、わが思ふままに、そらにいかでかおぼえ語らむ。

<訳>
ますますその続きを知りたい気持ちがつのってきたけれども、私が満足するまで、彼女たちが何も見ずに(=手元に物語が無い状態で)、思い出しながら語ってほしかったのだが、そんなことは無理に決まっていた。

<文法>
いとど/ 副詞
ゆかしさ/ 名詞
まされ/ ラ行四段動詞「まさる」の已然形
ど/ 接続助詞(逆説の確定)

そらに/ 副詞
いかで/ 副詞
か/ 係助詞(反語)
おぼえ語ら/ ラ行四段動詞「おぼえ語る」の未然形
む/ 推量の助動詞「む」の連体形(係助詞の結び)

※「~だろうか、いや~ではない」という意味になり、語ってくれなかった、という訳になる。

<解説>
ところどころ、部分的に話していると、辻褄が合わなかったり、「あれ? ここってどうだったっけ?」と記憶が繋がらない部分が出てきます。
一度読んで満足している姉や継母達はそれでもよかったのですが、全部を知りたい主人公はそうはいきません。
知れば知るほど、もっと話してほしい気持ちがつのってくる。
しかもそれが小出しにされるから、先が知りたくなって仕方がない。もうこうなってしまったら、どうしようもありません。小さい頃、無意味に何かにはまることは、誰もが経験することですが、この主人公も手元になかったからこそ、物語が読みたくて仕方が無くなってきます。あるものよりも、ない物の方が、実ははまるんですよね。人間って。
なので、彼女が満足するまで話す事なんて、周囲の人たちには誰もできなかったんです。
「ねーねーねーねー、新しい話してーーーーっっ!!」とずっと、会うたびに追い掛けてくる子どもを想像してください。
状況が分かりやすくなるかと思います。(笑)

-2文目①-

いみじく心もとなきままに、等身に薬師仏を造りて、手洗ひなどして、人間にみそかに入りつつ、「京に疾く上げたまひて、物語の多く候ふなる、ある限り見せたまへ。」

<訳>
私はじれったくてたまらなくて、自分の身体の大きさと同じだけの背丈の薬師仏を自作して、手を洗うなどして身を清め、人が見ていない時にこっそりと仏像がある部屋に入って「京の都に一刻も早く私を行かせてください。そして、たくさん存在すると聞いております物語を、存在する限り全て、私に読ませてください。」

<文法>
人間/ 名詞(体言)
に/ 格助詞
みそか/ 名詞(体言)
に/ 格助詞
入り/ ラ行四段動詞「入る」の連用形
つつ/ 接続助詞(反復「~しては」)※連用形接続

物語/ 名詞(体言)
の/ 格助詞
多く/ 形容詞ク活用「多し」の連用形
候ふ/ 補助動詞(丁寧)ハ行四段動詞「候ふ」の終始形
なる/ 伝聞の助動詞「なり」の連体形

<解説>
ここで想像がきちんと文章からイメージできている人は、「えっ???」と思うはずです。
「等身大」の「薬師仏」
普通、造りますか?? どうやって作ったんだろう? と本気で考えしまうのですが、子どもがいきなり手の平サイズではなく、自分の同じ身長の何かを作り始めたら、「この子、大丈夫かな……」と不安になります。(ちなみに私は思いました(笑))手の平サイズならまだ解るのですが、例えばプリキュアやアンパンマンが大好きな子どもが、いきなり「等身大」のプリキュアとかアンパンマンを作り出したら……とちょっと考えてください。
どう考えても、「変」ですよね……?
で、「変」だと言うことは自覚があったのか。人目を気にしてこの薬師仏にお願いをしているんです。
「どーかどーか、この世の中にあるだけ漫画読ませてくださいっっっ!!!」
とお願いしている女の子。
ちょっと特殊……ですよね。

-2文目②-

と、身を捨てて額をつき、祈り申すほどに、十三になる年、上らむとて、九月三日、門出して、いまたちといふ所に移る。

<訳>
と言いながら、身体を投げ出して額を床にすりつけてお祈り申し上げているうちに、十三歳に私がなった年。父の仕事の関係で、京の都にのぼることになり、九月三日に門出をして、いまたちという場所に一旦移った。

<文法>
祈り/ ラ行四段動詞「祈り」の連用形
申す/ 補助動詞(謙譲)サ行四段動詞「申す」の連体形
ほど/ 名詞(体言)
に/ 格助詞

上ら/ ラ行四段動詞「上る」の未然形
む/ 意志の助動詞「む」の終止形
と/ 格助詞
て/ 接続助

(※古典では、「と」の前は、カギ括弧のくくりになる。「上らむ」がカギ括弧にはいるので、「む」が連体形ではなく、終止形となる。)

<解説>
そして、主人公の願いが届いたのか、どうなのか。
父親の地方任期が終わり、京にもどることになります。当時、京で出世するためには、一旦地方の知事になり、一定期間政治を取り仕切って税を取り立て、京にもどる必要がありました。この時、京に近ければ近いほど任地場所として人気があり、遠ければ遠いほど、人気が低くなります。けれど、危険な場所で有れば、京にもどった後、出世が約束されています。
その地方任地の期間が終わったから京に帰ることになります。
主人公からしたら、とてつもなく幸運な引っ越しでしょう。
門出は、平安貴族のお約束です。移動する時間や場所、方角をとても気にしていた平安貴族。良い時期に、良い方角に行きたいはずですよね。なので、わざわざ良い方角になるように、一旦違う場所に移って、そこから本格的に長距離移動をする。物忌なども同じ理屈です。時期が悪いから、出掛ける方角が無いので、家で大人しくしている、という意味。
そして、物語をたくさん読みたいと願っている女の子が、物語で溢れている京に上ることになるわけです。

【第1段落まとめ】

田舎暮らしをしていた主人公が、周囲の人々の話から物語に興味を持つ。
その中でもやはり源氏物語の人気がとても高かったことは、伝わってきます。
源氏物語は特別だった。都の誰もが読みたいと願う作品であったというわけです。
けれど、その情熱が、ちょっと人よりも斜め上だった主人公の行動(奇行?)は、どんどんエスカレートしていくわけです。

今回はここまで




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読んで頂いてありがとうございました。


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