「丹波に出雲といふ所あり」古典解説2

徒然草
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「丹波に出雲といふ所あり」解説その2。

今回は、話のオチの部分です。(その1はこちら)

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【偉い人の失敗談】

-何故失敗談を書くのか-

大概徒然草に出てくる上人だとか、法師だとか、身分の高い人たちってその失敗談を書かれているような気がします(笑)

けど、兼好法師の凄いところはそれを笑いものとするのではなく、「何でそんなことしちゃったんだろう……」ということを考えさせてくれること。

この「どうして」とか「何で」というのを考えるのが、因果関係を考えることになります。

-因果関係を考えることは、一人から皆へ当てはまるものを見つけること-

どうして因果関係を考えるのか。

それは、人間がどうしてもちゃんとした理由を見つけて納得したいという欲望からなのですが、この因果関係をしっかり考えることは、それだけではない効果があります。

具体的な唯の個人の失敗談だけなら、その人を笑って終わりで、次から気をつけようねという話で終わります。

けれど、「どうしてそんな風に失敗したんだろう」と根拠を探ると、そこには人間が普遍的に持っている衝動だったり、欲望だったり、愚かな考えが見えてくる時があります。

こうなると、個人の失敗、というだけでなく、人間すべてに共通する気持ちを見つけ出すことになります。

するとどうなるのか。

単なる個人の失敗を、自分も同じ部分があるなと感じ取ることができ、自分の駄目な部分を受け止めることによって、他者の失敗から自分の行動を振り返ることができます。

これが兼好さんはとても上手い。

他人の失敗をあざ笑うのは、簡単です。それって、「自分は違う」と思うから出来ることですよね。

でも、掘り下げていけば、そこにある衝動だったり、考え方は結構似ています。そうすると、誰かの失敗を笑えなくなってくる。誰かの失敗を自分のことのように受け取り、反省材料に使えるようになる。

それが、本から得た知識を使うことに繋がります。失敗から学ぶ。けど、本を読み、その因果を考え、自分事として受け止められるようになると、知識は格段に増え、使えるようになってきます。

せっかく得た知識。ぜひ使ってくださいね。

では、本文の続きです。

【本文】

-第四文目①-

①「いかに殿ばら、殊勝のことは御覧じとがめずや。無下なり。」と言へば、おのおのあやしみて、「まことに他にことなりけり。都のつとに語らん。」など言ふに、

〈訳〉
「なんと皆さま、こんなに尊い姿をご覧になって、お気づきになりませんか? それではあんまりなことですよ。(酷いことですよ)」と言うので、人々はそれぞれ不思議がって、「本当によその神社とは違いますね。都へのみやげ話にして話しましょう。」などと語りあっていたら

※つと=土産物

〈文法〉
御覧じとがめ/ マ行下二動詞「御覧じとがむ」の未然形
ず/ 打ち消しの助動詞「ず」の終止形
や/ 係助詞 疑問

こと/ 名詞・体言
なり/ 断定の助動詞「なり」の連用形(連体・体言接続)
けり/ 詠嘆の助動詞「けり」の終止形(連用形接続)

※「けり」は過去の助動詞として良く出てきますが、今回は、「詠嘆」です。意味は、「なんと~~だなぁ」「~~なことよ」と、感動している時につける言葉です。過去とは違うので、文脈判断を気をつけること。

語ら/ ラ行四段動詞「語る」の未然形
ん/ 意志の助動詞「む(ん)」の終止形

 

〈解説〉

この聖海上人さん。名前からして、とても身分の高い僧侶だと思うのですが、「お気づきになりませんか?」って人に聞くの、あんまり良い性格じゃないよな……とちょっと感じてしまいます。
現代風に言うのならば、「え~、知らないの?」というやつです(笑)
「こんなことに気がつけないなんて、とっても駄目なことですよ」と言っています。

これって、本当に感激している人がやることでしょうか?

-第四文目②-

②上人なほゆかしがりて、おとなしく物知りぬべき顔したる神官を呼びて、「この御社の獅子の立てられやう、定めてならひあることに侍らん。ちと承らばや。」と言はれければ、

〈訳〉
聖海上人はさらに関心を深めて、年配の、物のわかっていそうな顔をした神主を呼んで、「この御社の獅子のお立てなさりようは、きっといわれのあることでございましょう。ちょっと、その理由をお伺いしたいものでございます。」とおっしゃったら、

〈文法〉
物/ 名詞・体言
知り/ ラ行四段動詞「知る」の連用形
ぬ/ 強意の助動詞「ぬ」の終止形(連用形接続)※確述用法「ぬべし」
べき/ 推量の助動詞「べし」の連体形(終止形接続)
顔/ 名詞・体言
し/ サ変動詞「す」の連用形
たる/ 存続の助動詞「たり」の連体形(連用形接続)
神官/ 名詞・体言

※「ぬべし」「つべし」は確述用法で、強意+推量のセットになり、「~に違いない」「きっと~だろう」などの意味になります。確述用法は、要チェック。
覚えてしまうと、この組み合わせしかないので、判別がとても楽になります。お得なセット。

立て/ タ行下二段動詞「立つ」の未然形
られ/ 尊敬の助動詞「らる」の連用形(未然形接続)
よう/ 接尾語

受身・尊敬・可能・自発の四つの意味を持つ「らる」。今回は、狛犬に敬意を払っているので、尊敬の意味。

ならひ/ ハ行四段動詞「ならふ」の連用形
ある/ ラ変動詞「あり」の連体形
こと/ 名詞・体言
に/ 断定の助動詞「なり」の連用形(体言・連体形接続)
侍ら/ ラ変動詞「侍り」の未然形
ん。/ 推量の助動詞「む(ん)」の終止形(未然形接続)

ラ変が二つもはいってるちょっと珍しい部分。ラ変は「あり・居り・侍り・いまそかり」です。

〈解説〉

文法がややこしい部分ですが、獅子と狛犬が逆向きになっているのは、きっと何かしら理由があることなんだ。それを知りたいなと思って、神主さんを呼び出します。そして、理由を聞くんですね。

-第四文目③-

③「そのことに候ふ。さがなきわらはべどもの仕りける、奇怪に候ふことなり。」とて、さし寄りて、据ゑなほして去にければ、上人の感涙いたづらになりにけり。

〈訳〉
「そのことでございます。いたずらな子どもたちがいたしましたことで、けしからぬことでございます。」と言って、立ち寄って、獅子を元の向きに置きなおして行ってしまったので、上人の感激の涙は無駄になってしまったことだ。

〈文法〉
奇怪に/ 形容動詞ナリ活用「奇怪なり」の連用形
候ふ/ ハ行四段動詞「候ふ」の連体形
こと/ 名詞・体言
なり。/ 断定の助動詞「なり」の終止形(体言・連体形接続)

 

いたづらに/ 形容動詞ナリ活用「いたずらなり」の連用形
なり/ ラ行四段動詞「なる」の連用形
に/ 完了の助動詞「ぬ」の連用形(連用接続)
けり。/ 過去の助動詞「けり」の終止形(連用接続)

 

〈解説〉

で、物語のオチです。
きっと何かしら、出雲神社らしい理由があるのだろうと思っていたら、実はそれは唯の子どものいたずらだったというオチ。

感激して、涙まで流した上人は、それこそ無駄なことになってしまいました。

で、少し考えてみましょう。この失敗、ただの上人さんの知ったかぶりがもたらしたものでしょうか。
恥をかくから、余計なことは言わない方が良いよという教訓だけの話でしょうか。

【まとめ】

-聖海上人の失敗の原因-

ポイントは、次の通り。

・滅多に見れない場所に来た。
・自分は人を引き連れて行く立場。
・実際に見た出雲神社は素晴らしい様子だった。
・それに、ハイテンションになってしまい、つい調子に乗ってしまった。

ということ。

滅多に見れない場所に来てしまって、楽しいし、本当に感動して、つい調子に乗って、出過ぎたことをしてしまった。

この出過ぎたことをしてしまう人間の心って、どういうものでしょうか。

出雲神社の特殊な祀り方なのかな? と疑問に思い、神主に確かめるだけならば、何の問題もなく、「いたずら好きの子どもがいるものですね」という話で終わっただけのものです。

上人が恥をかいたのは、狛犬の姿に勝手に感激して涙を流し、自分が連れてきた人々にもそれを知らせて、「気がつかないとは、駄目な人たちですね」と駄目押しをしている部分です。

これ、もし本当に何かしらの理由があることだったら、どうなっていたでしょうか。

「これこれこういうわけで、背中向きにしているんです」という、誰もが納得する理由が説明されたのならば、「こんな些細なことに気がつくなんて、やっぱり徳の高いお坊さん(聖海上人)は、素晴らしい人だなぁ」ということに、なりませんか?

つまり、この上人さんは出雲神社をたたえたかったわけではなく、些細な違いにも気付くことが出来た自分を褒めてほしかった。だから、ちょっと大げさに話を盛ってしまった。色んなものに深く感動し、心を動かす自分にちょっと酔っていて、「あなたたちとは違うんですよ」と言いたげに宣伝していたのに、実はそれが単なる思い込みで、子供のいたずらだと解って、非常にばつが悪い思いをしてしまった。

でも、自分を褒めてほしい人って、誰もがそうですよね。

誰だって、人に褒められたいし、認められたい。そういう欲求は持っている。そして、神社ですけど、宗教施設なら、僧侶である上人の方が、一般人よりは専門家のはずです。だから、違いをちょっと見せたかった。そんな欲が湧いてきてしまった。

凄ーく普通人間だったということ。

そして、この失敗は、誰もがやってしまう失敗であることも、同時に理解しましょう。誰だって、褒められたいですものね。ちょっと良いところ見せたいな、と思ってすることは、大概失敗するって事ですね。

ここまで読んで頂いて、ありがとうございました。

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