枕草子「宮に初めて参りたる頃」の解説、その3です。
今回は、第3段落から最後まで。主に、伊周と定子のやりとりを、清少納言が覗き見している様子を描いています。
直接見ることなんて滅多に出来ない人達の、プライベートな様子。今でも、芸能人や有名なスポーツ選手の無プライベートを見られる機会なんて、滅多にないものです。それを知るチャンスがあるのだったら、今だとツイッターやインスタグラムなんかに写真や感想を上げて、皆に知らせたくなる人が殆どですよね。(良いか悪いかは別として、嬉しいし楽しい事があったら、人に伝えたくなるのが人間です。そういう衝動は、皆持っているもの。)
清少納言も、そうだった。と考えると、ちょっと身近になります。平安の、かったーい世界で暮らしている人ではなくて、私達の感覚とむしろ近くて、とっても解りやすい気持ちをいだきながら、ミーハー精神たっぷりに高貴な世界をのぞいて楽しんでいる。
そんな雰囲気で、続きを読みましょう。伊周と、定子の会話です。
【第3段落】
-3文目-
柱のもとに居給ひて、「昨日・今日、物忌みに侍りつれど、雪のいたく降り侍りつれば、おぼつかなさになむ。」と申し給ふ。
(訳)
伊周様は柱のそばにおすわりになって、「昨日・今日は、物忌みでございましたけれども、雪がたいそう降りましたので、こちらが気がかりで参上いたしました。」と、申し上げなさった。
※訳で大事なのは、
「もと」=そばで。近くで、という意味。
「物忌み」とは、陰陽道(当時の占いのようなもの)で、出かけるのに縁起の悪い日のこと。この日はみんな、お家に引きこもります。生まれた年や月によって、各々閉じこもる時期が違うのも、特徴。
(文法)
居/ 読み方が、「ゐ」なので、ワ行上一段動詞「居」の連用形
※訳は「座っている」の意味
給ひ/ ハ行補助尊敬 四段動詞(用言) 「給ふ」の連用形
て/ 接続助詞 (連用形接続)
居、は存在する、という「ある」「いる」という意味もありますが、「座る」という意味も有ります。これは、部屋を尋ねてきた伊周が座ったことを指し示す単語。
今回は、単純な「給ふ」の尊敬語のみです。なので、行動した人。座った人を考えれば良い。女性の部屋に入ってきて座るのは伊周ですよね。なので、主語がここで確定です。
そして、接続助詞の「て」文法的には、分析のお助けマンです。(参照⇒今からでも間に合うセンター対策 解る古典文法解説 基礎編 その3)
接続助詞の「て」は必ず連用形にくっつきます。覚えれば、見ただけで上についている動詞、形容詞、形容動詞、助動詞の形が解ってしまう。超お得です。
物忌み/ 名詞(体言)
に/ 断定の助動詞「なり」の連用形 (体言・連体形接続)
侍り/ 丁寧の補助動詞 ラ変動詞(用言)「侍り」の連用形
つれ/ 完了の助動詞「つ」の已然形(連用形接続)
ど/ 逆説の接続助詞 (已然形接続)
常に接続の確認を文法表で行ってください。慣れれば、簡単です。覚えようとせず、確認を先に行うこと。見慣れれば、後は勝手に覚えます。
意外に皆が軽視しているのは、助詞の接続ですが、「て」も「ど」も、上の変形が確定しているので、とっても助けてくれるものです。是非とも覚えてください。ぐっ、と判別が楽になります。
降り/ ラ行四段動詞「降る」の連用形
侍り/ 補助丁寧動詞 ラ変「侍り」の連用形
つれ/ 完了の助動詞「つ」の已然形 (連用形接続)
ば/ 接続助詞(已然形接続なので、確定条件)
同じ「侍りつれば」の、助詞が違うバージョン。練習問題として、丁度良いですね。
おぼつかなさ/ 名詞(体言)
に/ 格助詞 (体言・連体形接続)
なむ/ 係助詞 強意(結びは連体形 略)
この「に」は助動詞では無く、格助詞の「に」
係助詞の「なむ」の結びは、「参りつる」と連体形で括られている形が、省略されています。もう、参上して、目の前にいるから、わざわざ言う必要も無いと思ったんでしょうね。
申し/ サ行四段動詞 謙譲語「申す」の連用形
給ふ/ ハ行四段補助動詞 尊敬語「給ふ」の終止形。
※はい、きました。二方面の敬語。
「申し」は、作者、清少納言が伊周の行動を下げて、定子に敬意を表し、「給ふ」は、清少納言が伊周の行動を尊敬語で上げている。
これがすぱん! と解る様になると、読んでてもスッキリしますよね。なんじゃこりゃ! になる前に、丁寧に見直しをしましょう。
-4文目-
「道もなしと思ひつるに、いかで。」とぞ御いらへある。
(訳)
定子様は、「雪が降り積もっていて、道もなかったと思いますのに、どうしてこんな大変な日に参ったのですか?」と、お答えになる。
(文法)
いかで/ いかで(参りたる)が、省略されている。なんとかして、どうにかして、の意。(その他、疑問・反語の意味もあり。今回は違う)
伊周が「参る」を省略したように、定子も省略しています。
ぞ/ 係助詞 強意 結びは連体形
御いらへ/ 名詞
ある/ ラ変動詞 「あり」の連体形(係助詞の結び)
係助詞は、結びの形を変形出来る影響を持った言葉です。お決まりパターンみたいな形ですね。
-5文目-
うち笑ひ給ひて、「あはれともや御覧ずるとて。」などのたまふ御ありさまども、これより何ごとかはまさらむ。
(訳)
伊周様はお笑いになって、「こんな日に参る人間を、あなたがあわれとお思いなるかと思いまして」とおっしゃるそのお二人の御様子は、これ以上のものがこの世に存在するのだろうか、いや存在するわけがないという気分になってくる。
(文法)
や/ 係助詞 強意 (結びは連体形)
御覧ずる/ サ変(御覧+する)動詞「御覧ずる」の連体形(係助詞結び)
と/ 格助詞(体言・連体形接続)
て/ 接続助詞
「名詞+する」の形は、サ変になるので、判断をミスらないように。
か/ 係助詞 反語 (結びは連体形)
は/ 係助詞 (結びの形は上の「か」を優先)
まさら/ ラ行四段動詞「まさる」の未然形
ん/ 推量の助動詞「む(ん)」の連体形(係助詞結び)(未然形接続)
係助詞「か」は反語で取ります。
これ以上の高貴な様子なんかあるんだろうか? いや、あるわけないよっっ!! という強調表現です。
-6文目-
物語にいみじう口に任せて言ひたるに違はざめりとおぼゆ。
(訳)
物語に、あれこれとすばらしく口をきわめて(美辞麗句を並びたてて)ほめて言っているのに、すこしもちがわないようであると思われる。
(文法)
言ひ/ ハ行四段動詞 「言ふ」の連用形
たる/ 完了の助動詞「たり」の連体形(連用形接続)
「たり」は、完了と断定の助動詞がふたつあります。
連用形接続が、完了
体言接続が、断定です。動詞にくっつくのは、完了の意味。
違は/ ハ行四段動詞「違ふ」の未然形
ざ/ 打ち消しの助動詞「ず」の連体形(未然形接続)
めり/ 推量の助動詞「めり」の終止形(連体形接続(特殊接続))
「めり」は、本来終止形接続なのですが、ラ変や形容詞形の特殊変形をする助動詞や動詞の形には、連体形に接続します。
※「ざめり」⇒「ざんめり」⇒「ざるめり」(撥音便で省略)の形。なので、「ず」の連体形の「ざる」で活用形を判別します。
今日はここまで。
続きはまた明日。
ここまで読んで頂いて、ありがとうございました。
続きはこちら⇒枕草子「宮に初めて参りたる頃」その4古文解説
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