こんにちは、文LABOの松村瞳です。
昨日に引き続き、センター評論の解説をしていきます。
昨日のおさらい。
①現代は科学技術に依存している社会。
②生活そのものが科学技術に支えられているから、切り離したら生活が維持できなくなる。
③今までは問題解決能力があって便利だったけど、最近は科学のせいで起きている災いも沢山ある。
④科学者に言わせると、それは無知がもたらす不安から生じる疑問だから、科学知識を持てば大丈夫。けど、それって本当なの? 本当に大丈夫なの?
な、感じの冒頭でした。この冒頭をしっかり理解しておくと、後からが楽になる。最初って、本当に大事なんですよね。大概読んでて分からなくなる時は、最初の理解が足りてない事がほとんど。
今回の2017年の評論だと、肝になるのが問題提起の④段落部分です。
科学に対して不安になるのは、科学知識が足りないからだよ。知識が付けば大丈夫!! と科学者は言うし、専門家である科学者はそういう発想にしかならないけど、科学知識身につければ本当に大丈夫なんだろうか?
という問題提起になっているんだから、まぁ、結論は「大丈夫じゃないよ!!」ってなるのは、想像できますよね。
さて。その想像が当たっているのか。
先を読んでみましょう。
【段落5】
ここからは、具体例。この評論文のテーマでもある、神話の『ゴレム』が出てきます。
・科学社会学者のコリンズとピンチの『ゴレム』という本が現代科学の状況を解説。
・ゴレムはユダヤ神話に登場する怪物。
・利点=魔術的な力があり、成長する。命令に従い、仕事をこなし、外敵から守ってくれる。
・欠点=不器用で危険。適切に制御しないと主人を破壊する。
ここまで、ゴレムの説明です。
ここから、コリンズとピンチが説明する、現代科学の状態を解説していきます。
・現代では科学が、全面的に善か悪かでイメージが引き裂かれている。
・科学=無謬の知識(無謬=間違いがない)、神の存在のイメージがあった。
・でも、神のイメージ⇒過大な期待・約束⇒実現しない⇒幻滅へと繋がった。
「つまり」以後はまとめです。
・全面的に善だ! というイメージを科学者が振りまいた。
・一方、様々な事件が起こり、科学に対して幻滅が生じる。
・一転して、全面的に悪のイメージに転がり落ちた。
要するに、万能だと宣伝されて、実際に便利だよね。科学が全部問題を解決できるよねと思い込んでたら、幻滅するような事件が沢山起き、良いイメージだったがゆえに、マイナスに振りきれるのも極端に、悪のイメージになっちゃったと、説明しているわけです。
あれですね。
好きな人とか好感度高い芸能人なんかが問題を起こしたりすると、一気にバッシングされてしまうのと、ちょっと似てるかも。
期待や良いイメージが強い分、それを裏切られると信頼も一気に崩れ落ちていく。科学だけでなく、色んな部分で通じる真理ですね。
【段落6】
そんな状態の科学に対しての、コリンズとピンチが出した処方箋(病気の治療に必要な薬の服用書 要するに、手当の方法は、という意味)は……
・科学者が振りまいた科学=神のイメージを、科学の実態に即した、「不確実で失敗しがちなゴレムのイメージ」にとりかえることを主張。
で、本の中で色々な例示を提示し、説明し、あることを明らかにしています。
それは……
科学上の論争の終結が、科学哲学者が想定するような論理的、方法的決着ではなく、様々な要因が絡んで生じていることを明らかにしたのである。(本文)
はい。論争の決着、つまり争いがなくなるのは、論理的、方法的な結論を出すわけではない……と言うことは、
論理的の反対って、感情的、直感的ってこと。
方法的は、計画的な行動のことを指し示すのですから、その反対ってことは、無計画で、行き当たりばったり……
つまり、科学の論争は、感情的で直感的で、行きあたりばっかりの無計画さで生じているんだよ、って言っているのも同然です。
えっ? 本当に……?
と問題だけでなく、理解できるとちょっと背中が寒くなるような……科学者って論理性とか合理性の人達のはずなのに、論争は感情的な問題で生じているって、どういうこと? と思っちゃいますよね。
様々な要因、ってぼやかして書いていますが、~ではなく、という表現から、逆を想定すると、先が楽に読めます。
【段落7】
7段落目は、完全に具体例です。コリンズとピンチが『ゴレム』という本の中で取り上げてる、ダメダメな科学実験の例示。
・1969年にウェーバーが12年かけて作った実験装置で重力波の測定に成功したと発表。
・これが切っ掛けとなって、重力波の論争勃発。
・追試実験が沢山行われることに。
ここで厄介な問題が発生。
追試実験が、ウェーバーの結果と違う数値に。
これを発表しようとすると……
・ウェーバーの実験は間違い。大きな値の重力波は存在しない事を主張することに。
・同時に、自分の実験装置に不備があって、それを指摘されれば、ウェーバーの説が正しくなり、自分は実験能力が低いとみなされる危険性がある。
要するに、とっても目立つ発見をした人がいた。
その人の説が本当かどうか検証したい!! けど、否定するような実験結果が出たとしても、もしかしたら自分の実験装置が間違いだった場合、それを発表したらめちゃくちゃ批判されるかもしれない。そうしたら、科学者としておしまいだ……
まぁ、すっごく人間らしいといえば、人間らしいのですが、もうそうなってくると、重力波の存在があるのかないのかってことよりも、自分の将来を心配している科学者の姿がちらりと見えてくるような……
【段落8】
更に具体例の続きです。
「実験家の悪循環」と呼ばれる現象の説明です。
・重力波が存在するのかどうかが、争点。
・実験結果がどのような数値が取れれば、どのような結果になれば成功なのかを、前もって知ることは出来ない。
重力波の存在を確かめるために……
優れた装置が必要⇒装置を作ろう!⇒適切な結果(これがそもそも解ってない)が出なければ、優れた装置だと言いきれない⇒でも、優れた装置がなかったら、何が適切な結果なのか、判定できない……⇒優れた装置作んなきゃ!!⇒でも……の、どうどうめぐり……
【段落9】
具体例のまとめです。
この重力波の存在の論争。物凄くくだらないところで、決着します。
そもそも、存在しないことを証明する、というのは、不可能な事です。(悪魔の証明)科学者だったら、そんなこと解りきっているはずなのに、とっても安易な決着を迎えます。
・有力な科学者の重力波に対する否定的発言をきっかけにして、「重力波は存在しない」と決着した。
論理性、どこに行った……
これって、あれです。「誰誰クンが言ってたから~」「先生が言ってたから~」「テレビで言ってたから~」で、決着付ける、アレ。
存在の否定は立証できない物だってことは解りきっているのに、たまたま否定的な発言をした人が有名な科学者だったから、「あの人が言ってるんだから、確かだろう!」というので、結論が決まっちゃったというのです。
科学者の判断って、論理性に基づいているように思えて、意外にもそうじゃないという例示を挙げているわけです。
【5~9のまとめ】
⑤科学は善と悪のイメージに引き裂かれている。
⑥科学は万能な神ではなく、不器用で問題の多いゴレムの性質が強いんだよ。そっちにイメージを置き換えよう。
⑦ウェーバーの重力波の実験例。実験結果の検証をしたいけど、否定的な意見を表したら、自分が無能だと言われる危険性も生じる。
⑧どんな実験結果が出れば正解なのかが解らないから、思考がどうどうめぐり。
⑨結局、有力科学者の一声で、重力波は存在しない、という論理性とは程遠い理由で、存在の否定(本来不可能なこと)で決着がついてしまった。
科学がダメダメと言うよりも、科学者が超人間的で、駄目駄目なんじゃと思ってしまう、この流れ。更に科学の駄目な話が続きます。
今日はここまで。
読んで頂いてありがとうございました。
コメント