こんにちは、文LABO の松村瞳です。
七月も後半。いよいよ土用の丑の日が近くなってきました。この日が近くなると、スーパーやコンビニなどで鰻の広告が目立つようになりますし、ニュースでも毎年丑の日は取り上げられますよね。
でも、丑の日ってなに? 丑なのに、何で鰻? 食べるなら、牛じゃなくて? と、由来を知らないとちょっとこんがらがることが多いのが、行事というものです。
更にこの土用の丑の日に鰻を食べる風習って、元々江戸時代まで全く無かったと言ったら、どう思いますか?更には、この行事の由来が、単なる鰻屋さんの販売促進。つまり、コマーシャル効果が根付いて、こんなに広がった行事だと知ったならば?
キャッチコピー。言葉の力というのは、時にもの凄い効果を生みます。その効果の片鱗を、見ていきましょう。
【土用は四季に入らない、自然も人も不安定な時期】
日本には春夏秋冬、四季が存在します。この四季。明確に暦の上で区切られています。
二十四節気という、一年を24等分したなかで季節の始まりとされる、立春、立夏、立秋、立冬の前の18日間。約二週間半の期間のことを、土用と言います。春から夏。夏から秋。秋から冬、冬から春へと移行する、移動期間のことを言い、この時期は天候も何もかも、不安定になる、という事が言われています。占いなどでもこの土用期間は要注意時期。天候、自然が不安定。それに影響される人間の体調や気持ちも不安定になるから、「気をつけなさいよ」と古典等にも良く取り上げられています。
現在は夏だけが取り上げられていますが、暦がきちんと書いてあるカレンダーなら、夏以外の季節もきちんと書かれています。気にして見てみると、面白いですよ。
今年の夏から秋に移行する土用期間は、7月19日~8月6日。8月7日が立秋です。土用あけ。不安定な時期の終了です。
ここ最近の異常気象から鑑みても、この時期は本当に天候が荒れることが多かったのでしょう。そして、天候が荒れると、人の体調も不安定になり、心も不安になります。今ならば熱中症。昔なら、日照りや水不足などで心配事は尽きない。天災が起これば、どうしてそんなことが起こるのだろうと、不安になり、それがイライラへと繋がっていって、人と喧嘩して、人間関係が悪化しやすくなる。そんな面倒事が土用には起こりやすい。だから、土用期間は気をつけて過ごしましょう、なんて風習が根付いていました。
【丑は、十二支】
ここで質問です。
十二支、あなたは全て言えますか? そして、全部漢字で書けますか? いつものごとく、ズルは無しで。指折り数えて書いてみてください。
↓
↓
↓
↓
はい、答です。
子=鼠
丑=牛
寅=虎
卯=兎
辰=竜
巳=蛇
午=馬
未=羊
申=猿
酉=鳥
戌=犬
亥=猪
この十二支。昔から、年や時刻、方位などに使われていました。今でも、未年生まれ、とか年賀状でイラスト等に使われていますよね。ちなみに今年は酉年。
この暦。年だけでなく、月にも、日にも適用されています。一月が子から始まり、十二月が亥。日付も、十二日間をワンクールとしてぐるぐると回り続けています。
【土用の丑の日は、土用期間と、丑の日の掛け合わせ】
土用期間は7月19日~8月6日。
その間に巡ってくる丑の日。この二つが重なりあった時に、土用の丑の日と成ります。
今年の土用の丑の日は、7月25日(火)と、8月6日(日)の二日。都合、一の丑、二の丑、と呼びます。
鰻屋さん、大喜び。二日も特売日があるんですから、売上増が見込めます。
そんな現金なっ!! と思うかもしれませんが、そもそも土用の丑の日は、鰻屋さんのPRから始まった事なのです。
【驚異のコピーライティング術 売れない季節に鰻を大繁盛させた、たった一行のコピー】
現在のように鰻が食される様になる前は、鰻はそもそも下魚。身分の低い人が食べるものでした。それを八代将軍吉宗の時代に花開いた元禄文化時代に料亭の一流料理として出される様に成り、一躍江戸で大人気の魚料理と成る。料理人の努力の結晶ですね。
けれど、鰻はそのこってりとした味の為、夏は避けられた食材でした。確かに、夏ってさっぱりしたものが欲しくなりますものね。今みたいにクーラーも無いし、かき氷やアイスなんかも食べられなかった時代なら、尚更こってりした鰻は、高級であることも手伝ってさけられたのでしょう。
当時の鰻屋さんはほとほと困った。全く売れなくて、お客さんも来ない。どうしよう。鰻の旬の十一月までは遠いけど、何とかこのお客さんが来ないのをどうにかしないと、お店が潰れてしまう。
いつの世も、集客って大変なんだなと思う瞬間ですね。科学技術がどれだけ進んでも、人間の悩みって基本的なところは全く変わってない。状況や環境は変わってしまっても、そのことで悩む人間の悩み事は一緒。釈迦は人の悩みは貧・争・病の三つ。それ以外は無いと言い切りました。この鰻屋さんも、貧で、悩んでいた。
普通だと、旬じゃないんだから、無理だろっ!! 夏の暑さなんてどうにも出来ないし。過ぎ去るのをただ待つだけ。どう頑張ったって無理っ!!と白旗を上げるのが、当たり前の行動です。だってどう頑張ったって、無理でしょ? と思いたくなりますよね。
普通ならそれで諦めるのが当たり前。天に唾を吐いても、自分の顔が汚れるだけです。けど、この鰻屋さんは頑張った。と言っても、知り合いに「どうしたらいいのかな?」って相談しまくっただけなんですけどね。そして、その中の一人に、へんてこな発明家がいたんです。
そう。名前を平賀源内。歴史の教科書にも載っている人なので、知っている人も多いのではないでしょうか。
この人、本当に多芸多才な人で、元々は本草学。今で言うなら、薬学ですね。お薬の学者さんだったのに、物理学を勉強したらそっちに興味がわいて、外国からの輸入本に書いてあった発電機のエレキテルを自分で作っちゃう。かと思えば、江戸の人が火事に困っていると、だったら燃えない布で大事なものをくるんでおけばいいじゃないかと、不燃性の布を作ったり、ベストセラーの小説書いたり、今で言うならテレビドラマの脚本も書いちゃったという、あんた、何してる人なの? って質問がこれほど無意味な人も居ないんじゃないかと思う程、色んな事をやりまくった人。
悩み事を解決するのが好きだったんじゃないかな。相当頭良いのは皆が知っていることだから、きっと何か良い案を考えてくれるんじゃないのかとお願いしたら、この平賀源内さん。これ、明日、紙に書いて目立つ所に張っておいてと、言ったそうです。
その文章が、「本日、土用の丑の日なり」
なんのこっちゃ? と鰻屋さんも半信半疑で、でも苦しい事には変わりはないし、ただ張り紙を張るだけで何かが変わるならお安い御用だと、張り出した。そしたら、全く客が来ない夏に、お客さんが来るようになったのです。
ただの偶然なのではないか、と思う人も居るかもしれませんが、平賀源内は人が何に興味を持ち、どうやって動かすことが出来るのかを熟知していた。小説も書いていたし、文章や言葉で人の心が動くことを、きちんと解っていたのでしょうね。
【何故、たった一行の文が鰻屋を繁盛させたのか】
この平賀源内の示した一文。何処にも説明はありません。ただ、今日は土用期間で、丑の日ですよ、と書いてあるだけ。まだ西洋式のカレンダーには馴染みが無い時代です。人々は、二十四節気と干支の組み合わせで日々を認識していたし、立秋まであと何日、という感覚で日付を考えるのが身についていました。だから、丑の日、と言われても、確かにそうだけど……と、すぐ暦として認識は出来たんです。
けれど、だったら「何で丑の日が張り紙に?」「鰻屋なのに?」「あれか。う、つながりか?」と、見かけた人は気になったでしょう。気になったら、人間は何をするのか。謎があると、解きたくなる。気になるなら、店に入って訊けばいい。で、お店の人はこう応える。
「ええ、土用の丑の日なので、鰻でも召しあがって頂こうと思いまして」と。
明確な答になっていません。でも、こじつけでも何でも、取り敢えず人間って不透明なものでも理由を手に入れると「へぇ、そうなのか」と思っちゃう。そして、色々解らないことは勝手に頭の中でつじつまを合わせ始めるのですね。それこそ、勝手に。一瞬で。
「土用期間は身体が弱るからなぁ。瓜や豆腐ばっかりじゃ、力なんか出したくても出せないし」
「精のつくものを土用期間に食べると良いらしいよ」
「土用に鰻を食べると、身体に良いそうだ。確かに、あのこってりした味なら、元気も出るな」
「夏の弱っている時に鰻を食べると良いらしいよ」
「夏には鰻だね」
と、変化していった。伝言ゲームの凄まじさ。元の意味が無いものでも、好意的に解釈されるものはどんどん加速度的に噂が広まっていきます。今のSNSの拡散と同じですね。皆、人の役に立つお得情報って、話したくなるんです。
ここでポイントは、最初から「夏に鰻を食べると良いよ」と書いていないところ。
詳しく書くと、どうしても本音が見えちゃいます。「鰻買って!! 経営苦しいのっっ!!」って心が透けて見えちゃう。けど、それをやってしまうと、人間って鏡だから「こっちも苦しいんだよっ!!」って反発されちゃうんですね。
だから、謎を作っておく。相手の頭の中で、想像させる。
一瞬で見て、「んっ?」と首を捻る様な印象深いコピーを考える。
平賀源内は、兎に角お店の中に人を入れたかった。何故か。
今でもそうですが、鰻屋さんってお店に入ると良い匂いがします。あの香ばしく甘いたれの焼ける醤油の匂い。思い出したら涎が出てきますよね。そう。その匂いをかがせれば、絶対に食べる人は居るはず。夏にお客さんが来ないならば、客の方もこの匂いから遠ざかっている訳だから、お店の中に入らせればこっちの勝ちだと思ったのでしょう。人は、自分の行動の理由づけを後から付け加える生き物です。
「なんであの時、こんなにお金使っちゃったのかな~」と思って後悔しても、「まぁ、でもこの商品、良いやつだし! 最新モデルだし、カッコいいし。多少の出費は仕方が無い」と、後で帳尻を合わせちゃう。覚え、ありませんか?
だから、鰻屋の暖簾をくぐってお店に入り、張り紙の謎も一応答を得たけど、それで帰るのはなんだか悪い気がする。良い匂いもしているし、今日の昼飯は鰻にするか、と気持ちが傾き、食べた後で、「なんだか身体の調子が良いな。そうか、鰻を食べたからか」と、本当は良くなんかなってないし、なってもただの偶然に過ぎない物を、人は関連付けて考えてしまうのですね。
で、何で丑の日なのか。同じ「う」、から始まるなら、卯でも、午でも、良かったんじゃないのか。
多分これは想像ですが、平賀源内に頼んだ日が、偶然丑の日の前日だったんじゃないかな。で、当時牛を食べる習慣は無かったので、丁度鰻と関連付けるのに都合が良かっただけじゃないかなと。
そんなこんなで、鰻屋さんは大繁盛。そして、周囲の鰻屋さんも、あの張り紙で売り上げがあがるのならと真似をし始め、その噂が風に乗って全国へと広まり、現在まで続く習慣と成ってしまったという。
口コミの威力って凄まじいんだなと思う瞬間ですよね。人の好奇心を刺激するものは、残りやすいし、したくなる。
この、人を動かす力が、一行の文。コピーライティングにはある、という事です。
【嫌なものほど、キャッチコピーを作れ】
アメリカの実験なのですが、野菜嫌いの子供を集め、野菜ジュースを飲んでもらう実験をしました。
味は、子供でも飲めて、美味しくなるように工夫されたものです。決して、人参100%ではない。大人みたいに、「不味いっ!! もう一杯!」なんて、のは、子供には通じません。ちゃんと美味しい物を用意した。
けど、「野菜ジュース」と聞かされると、皆あからさまに嫌な顔をするんです。口を「へ」の字にひんまげて、見るのも嫌だと斜めに見降ろすあの顔。もうはっきり「飲むのが嫌だ。どうせ不味いしっ!!」と顔に書いてありますよね。飲んでも無いのに(笑)飲む前から、「絶対不味いっ!!」って決めつけている。
けれど、これを「野菜ジュース」では無く、ある違うネーミングで飲ませたら、皆にこにこ笑顔で飲み始めた。
その名も「トロピカルレッドパワーミラクルスムージー」
おいっっ!!って突っ込みが入りそうなんですが、なんかカッコいいネーミングが付いていると、それだけで人間って良いものに見えちゃうんです。中身は野菜ジュースと変わっていなくても。見た目も、人参色していても、それだけで満足しちゃう。なんか、良い物の様に思えてきちゃう。美味しそうだと、勝手に思っちゃう。
広告業界の人はこの法則を知っているから、散々コピーを作りに作るのですね。その一行で売り上げが変わることを、本当に熟知している。だからヒット商品はその味や健康効果よりも、印象的なCMで覚えていること、ありませんか?
なので、馬鹿げていても笑っちゃっても、嫌な事に作戦名をつけてみましょう。出来れば、自分の好きなものとリンクさせてしまう。音楽なんかも、テンションあがるやつをかけちゃう。
馬鹿らしいんですが、これ本当に効果があります。個人的に実体験済みなので。
今年、夏に入る前に、ベランダの窓に目隠しも兼ねて断熱シートを張ろうと購入したんですが、張るのが面倒でほったらかしにしていたんです。はい……
で、そろそろ暑くなってくるし、夏のこの時期に張るなんて、それこそ暑くて死ぬぞと自分に言い聞かせ、重たい腰を上げようとするのですが、テンションが上がらない。で、このエピソードを思い出して、「ネーミングかぁ。良いコピー、浮かばないなぁ……」とグズグズしてた時。
何気なーく、友人に「やる気が出ないので、作戦名プリーズ」(原文まんまです)と、お願いをしたら、数分程度で戻ってきたのが、こちら。
「窓を駆逐しろ!!」
思わず、笑いが。(「進撃の巨人」大好きなんです。) 私の好みを良く解っている(笑)
で、物凄く人間って単純に出来ているなと思うんですが、それでやる気になって、やれちゃったんです。しかも、笑いながら。
「しゃーない。駆逐するか」と、笑いながら出来ちゃった。コピーの力って凄いなと思います。
【人間は結構単純】
是非、嫌な事。やりたくないけど、やらなくちゃいけない事に対して、作戦名つけてください。ポイントは、馬鹿らしくても自分の好きなこととくっつけること。笑いが出ると、尚良しです。そんな単純なことで、人って動くんだなってことを、是非実感してみてください。
家族で出しあっても、面白いし、友達とやってもいいです。暗号っぽくなったら、尚更楽しいですよ。
是非、嫌なことを駆逐してください。
ここまで読んで頂いて、ありがとうございました。
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