小説読解 芥川龍之介「羅生門」その3~追い詰められた人間の思考とは~


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「羅生門」解説、その3。(その1 その2)

【前回までのまとめ】

-不気味な京の都-

この小説の背景は、荒廃した平安京の都です。

人が多く、文化的にも洗練されていた、貴族社会が花開いた平安京ですが、約400年も続いた時代の中で、天変地異が立てつづけに襲い、荒廃する時代も確かに存在しました。

そんな、道端に死体が転がっているような、すさんだ都の玄関口が、この小説の舞台です。

何故、そのような不気味な時代設定にしたのか。それは、そのような不安定な情勢の時に、人の暗い部分。いつもは抑えられている闇の部分が、色濃く表に出てくることを、作家芥川龍之介は見抜いていた。

家もなく、職もなく、明日どうなってしまうのか解らない。都も荒廃していて、人々も心の余裕が無くなっている。

このような状況になったとしたら、人はどのような行動を取るのか。それを、小説を通して語り掛けられている気分です。

-主人公下人の性格-

主人公、下人は普通の人間です。

格別な強い能力もなく、時代の荒廃に翻弄され、行くあてもなく雨を眺めている。

そんな下人の性格の特徴として、決断力がない、と言うことが色濃く前半の部分に描かれています。

自分が生きるためであったとしても、盗みは働きたくない。さりとて、「絶対に盗みをしない」「違う生きる道を探す」という意志も見えない。

環境に流されやすく、自分でなにかをしようとする決断力もない。

そんな人が、荒廃した環境に放り出されている。

このような舞台が整った上で、何が起こるのか。

先を読んでみましょう。

 

 

どうして自分ばっかり……そう思いたくなる瞬間って、誰にでもありますよね。

【第8~13段落】

-寝床を探す下人-

雨風の憂えのない、人目にかかる恐れのない、一晩楽に寝られそうな所あれば、そこでともかくも、夜を明かそうと思ったからである。(本文より)

ここまでの7段落までは、状況説明。そして、下人の状況の説明に終始しています。

どんな人が、主人公なのか。

どんな性格をしているのか。その背景は。どんな困難を抱えているのか。そして、どんな問題が目の前に存在しているのか。

それを説明した後。

話は動きだします。

この主人公が何かしらの行動を起こす=物語が動く、ポイントとなります。

そう。この寝床を求めて、羅生門の上に昇る行為が、下人の運命を変えて行くのです。

 

-門の上に灯されていた火-

それから、何分かの後である。羅生門の楼の上へ出る、幅の広い様子の中段に、一人の男が、猫のように身を縮めて、息を殺しながら、上の様子をうかがっていた。(本文より)

羅生門の上の楼には、死体しかないはずです。




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少なくとも下人はそう思っていました。けれども、その階段を昇り、上の様子をうかがえるようになってくると、息を殺していました。

つまり、身の危険を本能的に感じていた。

怖い何かが上に存在していると、感じていたのです。

楼の上からさす火の光が、かすかに、その男の右の頬をぬらしている。(本文より)

死人だけなら、火など存在しないはずです。

つまり、火を扱う何かが死体の中でうごめいている。

それを見てしまったが故に、下人の身体は硬直します。

怖いのならば逃げかえればいいのでしょうが、怖いと同時に、何であるのかをはっきりしておきたい。好奇心が恐怖心に勝ち、下人は階段にへばりつき、息を殺して伺い続けるのです。

一体、何が火を使って、何をしているのかを。

この雨の夜に、この羅生門の上で、火をともしているからには、どうせただの者でない。(本文より)

ただの者ではない、ということは、異形の者、異常の者、と言うことです。

普通の存在ではない。ならば、何なのか。それを知りたい。確かめたいという欲求が、ここに見え隠れします。

 

-沈黙の恐怖-

見ると、楼の内には噂に聞いた通り、幾つかの死骸が、無造作に棄ててあるが、火の光の及ぶ範囲が、思ったより狭いので、数は幾つともわからない。(本文より)

楼の上は、話に訊いたとおり、死体だらけ。

けれど、その数は暗かったので良く解らないけれども、びっしりと埋め尽くされた死体のイメージが広がります。

永久におしのごとく黙っていた。(本文より)

「おし」というのは、現代では差別用語のため使われないことばですが、障碍の為に話をすることが出来ない人々のこと。

つまり、無言であった、と言うことです。

恐ろしいほど、人の身体が重なり合っていて、確かにそこにあるのに、物や土人形のように積み重なったその姿は、まるでそれがもともと生きている存在だとは思えないほどに無機質で、けれども何も音はしない。

恐ろしく静かなのに、火は揺れている。

そんな恐怖の光景を、下人は眺めています。

-嫌悪感をも吹き飛ばす、大きな感情-

下人は、それらの死骸の腐爛した臭気に思わず、鼻を覆った。しかし、その手は、次の瞬間には、もう鼻を覆うことを忘れていた。(本文より)

死体の腐乱臭というのは、とてもきついものです。

しかも、それだけの人間が折り重なった状態であるのならば、腐ったにおい。つまり、生ごみの臭いをもっと強烈にしたような臭いがしているはずです。

けれど、下人はその臭いに生理的な嫌悪を抱き、思わず自分を守るために鼻を覆うのですが、次の瞬間にそれを忘れてしまいます。

それぐらい、強い衝撃が、生理的な嫌悪すら吹き飛ばしてしまった。異常な状態の全てを吹き飛ばす衝撃とは、一体何なのか。

【今日のまとめ】

物語が動く時は、主人公が行動を起こした時です。

状況が把握でき、性格をしっかりと語った後に、小説の話は動き始めます。

その動き始める切っ掛けが、この下人が楼の上に昇ることによって訪れます。

生きている人間など居ないはずの場所で、死体の中で火がともっている。その不気味さに、死体の腐乱臭すらも忘れてしまう衝撃を受けた。

もともと不安定な気分の上に、衝撃的なことが起こる。

さて、何が起こったのか。

此処まで読んで頂いてありがとうございました。

続きはこちら⇒小説読解 芥川龍之介「羅生門」その4~正義という心の危うさ~


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