「本当に公文って効果があるんですか?」
塾講師を続けていると、そんな質問をいただくことがあります。
受験。特に中学受験を考えておられる小学生低学年のご両親からのご質問が圧倒的に多く、またその中には公文の授業のやり方に、疑問を抱くご両親も多いのも事実。口コミも、良いものから悪いものまで、実に様々です。なので、せっかくのご質問の機会をいただいたので、全くの無関係な人間が解説をしてみたいと思います。
プリント学習が果たして、効果があるのかないのか。
ただ通ってプリントをやるだけならば、自宅学習でも十分ではないか。
それらの疑問に答えていきます。
自宅で再現可能? 公文の口コミ
-教材は簡単に入手可能-
公文の教材って、公文から買うと高いけれど、本屋さんに行けば同じようなものが安価に買えるよね?
確かにそうです。公文の月謝は習い事としては高く、1教科7020~7560円(地域差あり。2019年7月現在)。基本は算数・国語・英語の三教科なので、三つとも通ったら、21060~22680円。
価値観にもよりますが、決して安い値段でないのは確かです。
さらに、同程度のドリル教材は本屋さんに行けばあふれていて、1冊1000円前後。3教科でも一か月3000円。
明らかにこちらの方が安価であり、低コストとなります。
もちろん、その内容に独自性がある、と言われてしまえばそれまでなのですが、年間多種多様な教材を見ている側からすると、公文の問題はスタンダードであり、良くも悪くも独自性はありません。
本当にスタンダードであり、基本的なことを網羅しているプリントだと、見るたびに思います。
-指導者もほとんどが学生アルバイトばかり-
公文の先生って、ちゃんとしているのは一人だけで、後は学生のアルバイトでしょ?
これを言われてしまうと、塾業界がもはや学生のアルバイトなしには成り立たない状況でもあるので何とも言えないのですが、お教室による、としか言えないのが実情です。
そのお教室に通う生徒さんの数によっては、答え合わせの係のアルバイトさんはいらっしゃるでしょう。けれど、きちんとされている先生が経営されているお教室は、やはり違います。
なので、事前にご自身の近所で開かれているお教室の雰囲気を確認することが、何より大事です。
同じ教材を使っていても、指導者によって違いが出るのは、学校教育が良い例となります。
まず、指導者がどのような先生なのか。
公文だから大丈夫と思わずに、きちんとご自身の目で確認されることを強く強く、お勧めします。
教室に通うことでしか手に入らないもの
なんだよ、悪いことしか書いてないじゃないか……
と、思う方もいらっしゃるかもしれませんが、ここまではオーソドックスに公文に対して皆さんが抱く疑問です。
しょせんプリント学習で、詰込み学習。
平成どころか、昭和の雰囲気から抜け出せていない教育方法。
なのに、馬鹿にならない月謝代金。
プリントは本屋さんで似たようなものが沢山売っているのに……
そう。そんな口コミは本当に本当にたくさん聞いてきました。事実、その指摘が当たっている部分もたくさんあります。
けれど、公文ってとっっっても長く続いている全国チェーンの初等教育塾。創立は何と昭和33年です。
軽く60年以上続いている塾。しかも、その指導スタイルは初期のころとほとんど変化していません。
それだけ長く続いてるのには、やはり理由があるのです。
-通うことで手に入る環境-
公文の教室に通うことによって手に入るのは、勉強をする環境です。
殆どのお教室がそうであるように、一人一人が個人に割り振られたプリントを一人で机に向かい、専修の間違った部分と、新しいプリントを一人でやります。
下は小学生から、上は中学、お教室によっては高校生も通っているところもあるかもしれません。
それだけ幅広い年代の生徒が、一気にみんな一様に同じことをする、という空間はなかなか作ろうと思っても、作れるものではないです。
この特殊な環境が、小学生。
特に、低学年の生徒たちにいい影響を与えていくのです。
-環境のもたらす変化-
まず、子どもは大人の真似ごとが大好きです。
小学校低学年からしてみれば、小6や中学生は立派に大人です。
対外的にはまだ子供でも、子どもの世界の中では十分に大人びて見えるし、兄弟がいる子であったとしても、そんなに沢山の年上の人が集まる場所に通う、ということは中々ない経験です。
そして、基本、みんな同じことをしているので、子どもは大人のまねごとをするように、年上の生徒の真似をするようになります。
つまり、
ああ、ここは黙って勉強をする場所なんだ。
という、社会性を身に着けていく。
これは、どう頑張っても自宅では身につかない感覚です。さらに言うのならば、これを口で言うのではなく、雰囲気で、環境が教えてくれるのです。
この、みんなが勉強をする場所でのルール。
つまり、はしゃがない。大声を出さない。自分勝手なふるまいをしない、という一定のルールを彼らは学んでいくのです。
-集中力を養える-
公文の教材は、実に単純です。
けれど、単純であるがゆえに、短い時間を頑張れば、すぐに正解という成果が出ます。
これは集中力を養うのにとても効果的です。
短時間頑張って、休憩を入れて、また集中する。その、緊張と弛緩の連続を繰り返すことによって、彼らは自然と長く問題に向き合えるようになり、少しずつ問題をやる時間が長くなってくるのです。
-プリントに直接書き込むことで指先が鍛えられる-
タブレットでの学習が珍しくない昨今ですが、タブレットやパソコン、スマホの画面を通しての、機械相手の勉強は、習得率が紙と人間を相手にした時よりも70パーセントも減少する、という研究結果が出ています。
地味な、文字をなぞったり、計算過程を何度も書いたりすることで、指先が鍛えられ、そして指先を多く使うことは、脳の発達にも直結します。
幼少の教育で、ピアノが一番良い効果があると脳科学者が断言しているのは、指先をバラバラに動かすからです。タブレットではこれは得られず、実際に鉛筆を持ち、何度も「書く」という行動が、見えないところで脳を発達させているのです。
小学生の能力は未知数
-凸凹な能力-
そして、とても大事なことなのですが、小学生の能力はとても凸凹しています。
言葉関係がとても発達していたと思えば、計算が何にもできない。
逆に、計算がとても速く、それこそ暗算力がスバ抜けていても、漢字が全く読めない子もいます。
一人一人、直接教えていると良く思うのですが、小学生の能力は酷くアンバランスな状態です。
-個人の力量に合わせたプリントが用意できる-
だからこそ、個人の能力に合わせたプリントを用意し、また得意分野は人より抜きん出て、苦手分野はじっくりと、スモールステップで積み上げることが出来ます。
全て同じ高いレベルで、と考えがちなのですが、無理に苦手な部分を上げるよりも、得意分野を思いっきり伸ばしてあげる方が、プリントや問題をすることに対する苦手意識が薄れます。
また、年上と同じ環境で勉強していることが、プリントの速度を上げ、相手に追いつきたいという感情も芽生えさせます。
-能力の最低値が平均値に追いつくのは中学生-
では、苦手分野は放っておいていいのか、ということなのですが、そんなことはありません。
得意分野に余裕が出れば、おのずと苦手分野に対する意識も変わってきます。
それに、苦手な部分が治り、平均値になってくるのは大体が中学1年生です。
なので、まず自分がどの分野に秀でているのか。どの分野が苦手なのかも解りますし、海外の飛び級ではありませんが自分の学年を飛び越して勉強できることは、子どもの自尊心を育てることにもなります。
教材別の効果
-算数-
おそらく公文において一番効果が高く、実践向きな教科は、算数(数学含み)となります。
スモールステップで組まれた問題と大量の計算問題をこなすことにより、自然と計算が早くなり、処理能力も上がっていきます。
私立中学受験に対応した問題ではありませんが、低学年のうちに平均的な問題を大量にこなしておくことは、その次のステップに向けての準備段階として、向いているでしょう。
-英語-
音声が出るベンがプリントをやるのに必要で、単語の発音の確認ができます。
けれど、あくまでこれは「学校のテストを受けるための問題・プリント」という位置づけであり、このプリントのみで英語が話せるようになることは、おそらくないでしょう。
何故かというと、圧倒的に「書く(なぞる・写す)」「読む」の作業がほとんどであり、外国語を習うときに必要になる「話す」という項目が抜け落ちているからです。
なので、紙の試験を受けるためのプリント、であることを前提に受けましょう。
-国語-
さて、公文の中で一番評判・口コミが悪いのがこの国語です。
漢字や文法などには強くなれますが、読解問題や記述に対するアプローチは殆どされておりません。
なので、国語が最初から得意なら受けている意味はありますが、苦手であるのならば、お勧めはしません。
何故なら、まず文章を理解するためにどこで躓いているかを判定し、しっかりと説明することは、公文の指導時間ではなかなか取れないからです。(お教室や先生にもよります)
国語は、・漢字の読み書き能力(知識)・文章の読解能力(読書力)・問題文に適切にこたえる記述力(書く力)がそれぞれ必要になり、どれが欠けても先に進めません。
なので、漢字などの知識を増やすことはできても、読解力、記述力は付きにくい傾向性があります。
プリント学習の弊害
-壁にぶつかった時の対処法が分からない-
次は問題点。
公文は、学年がいりまじった生徒が複数人常にいます。
ので、全体授業は不可能であり、間違いの訂正をしてもらうための先生も、生徒の人数に対して少数体制です。
なので、基本的に指導は受けられないもの、という考えを持っていた方が良いです。だからこそ、一人で難しい問題と向き合わなければならないので、解けない問題がやってきたときに、適切なケアと説明。理解を深める指導が必要になりますが、これは公文の先生へお任せするよりも、ご両親が指導する。またはプリントの意味が分からなくなった時が、次のステップに進むための段階にきている合図です。
『できない』時に、どのように対処をするのか。
多くの勉強法に共通する、ポイントです。
-宿題の多さに勉強嫌いになる可能性-
プリント学習の弊害は、宿題の多さです。
特に、小学生3~4年生前後になると、プリントの数が一気に増える傾向にあります。
その時に対処出来たり、プリントをこなすことが楽しいのであるのならば、問題はありません。けれども、宿題をやること自体が嫌になっているのならば、個別指導が必要になってきます。
-状況判断とケアがポイント-
どの学年でも同じことですが、生徒が勉強を嫌になってしまうのは、「分からなくなった時」です。
プリント学習の場合、単に進むプリントの量が少なくなるだけなので、「分からない」ということは、露呈しません。隠すことが出来ます。
けれど、この「自分のできないことを隠す」という行為が、後々まで響く可能性があります。
出来ないことを認められず、正面から向き合って乗り越える方法を模索することなく、「隠す」という行為で逃げてしまうと、その影響は中学や高校まであとを引くので、どこまでわかっているのか。どんな問題が出来て、どんな問題が難しいのかを、話し合うことがとても大事なポイントとなっていきます。
まとめ
・家庭では作り出せない、『環境』の力を受けることが出来る。
・個人差が激しい小学生時に、個人の得意分野を思いっきり伸ばすことが出来る。
・直接プリントに手で書き込むことで、脳の発達にいい効果を与えることが出来る。
箇条書きで上げてみましたが、公文の利点はこの3点。
社会性は団体の中でしか培われないものです。
問題を解くのが、ゲームのように楽しいと思えるのならば、公文のプリント学習は良い効果を発揮するでしょう。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
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