小説読解 夏目漱石「こころ」その5~Kの告白の不自然さ~


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「こころ」解説その5です。

大修館書院発行現代文Bの182ページ。第2段落からの部分となります。

筑摩書房発行の「精選 現代文B」も、この辺りからの抜粋となります。

Kの恋心の告白です。

【進むべき方面】

そんなこんなで、もやもやした状態のままにお正月を迎えることになります。

火鉢のエピソードが11月なので、先生は2ヶ月近く何もせずに過ごしてしまった、ということに。

こんな訳で私はどちらの方向へ向かっても進むことができずに立ちすくんでいました。(本文より)

ここの部分も記述で良く問題になる部分です。

どちらの方向、と描写があるからには、目の前に2つ、ないし2つ以上の選択肢があることを指します。

なので、先生が取ることのできる選択肢を二つ並べて記述するのが、テストでのポイントです。

これは、告白するか、しないか。という2択ですね。

けれども、両方共にしたくない理由があります。

告白することへの、マイナス要素は何でしょうか?

そう。失敗する。お嬢さんにフラれること。または、周囲の期待に添うことが面白くない事です。

では、告白しない事のマイナス要素は?

お嬢さんへの恋心を諦める事です。

その理由は、昨日のエントリーで説明しました。

(参考⇒小説読解 夏目漱石「こころ」その4 ~先生がお嬢さんに告白しない理由~

なので。それらをまとめると……

周囲の期待にこたえる不快感を我慢し、お嬢さんが仮にKのことを好きであったとしても、フラれる覚悟でお嬢さんをくださいと奥さんに告白するか自分を完全に愛していない、心の奥底では違う誰かを愛している女性とは結婚したくないと、お嬢さんへの恋心を理性で押さえつけて、告白をしないか、の2つの方向、ということになります。

告白するか、しないかだけではなく、その時の状況や付随してくる条件を付け足して解答を書けるようにしてみて下さい。

それだけでグッと解答率が上がります。

まず根幹の部分を作って、それに付け足すイメージで。

単純な文の構成→条件や環境を付け足す→解答を書く、の順番を守ること。

いきなり書いても、準備が無いと支離滅裂なものを書いてしまいます。何事も準備が大切ですよね。

この先生みたいに準備ばかりで結局行動しないのも問題ものですけど。。。

【正月のかるた】

そして、新年を迎えます。

先生は実家というものが既になく、親戚とも叔父の件で絶縁。Kも、進路を巡って実家とは絶縁しているので、帰る場所。つまり故郷が2人ともありません。

なので、お正月もそのまま下宿で過ごすことに。




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そんな中、奥さんがせっかくだからかるたをしようと言い出します。

些細なエピソードですが、この何気ない日常の描写の分析が、後々生きてきます。読み飛ばさず、丁寧に読み進めましょう。

【友達のいないK】

ここでKはとても不思議な発言をします。

ある日奥さんがかるたをやるから誰か友達を連れて来ないかと言ったことがあります。するとKはすぐ友達なぞは一人もないと答えたので、奥さんは驚いてしまいました。(本文より)

あっさりと書いてありますが、ものすごく重要です。

友達が一人もいない。Kに友達がたくさん居ないのは、何となく雰囲気からも伝わってきますし、人付き合いが好きそうなタイプにも見えません。

けれど、ポイントは一人もいないという事です。

そこで、超重要な疑問が浮かびますよね。そう、Kの目の前にいる人は、誰でしょう。

Kは「先生は友達ではない」と言い切っているのです。

夏休みに2人で房州旅行に行ってるのに??

子供の時から幼馴染で、東京で六畳一間で一緒に学生生活をして、昔から色んなことを話した相手が目の前にいるのに、友達は一人もいないという。

しかも、先生もそれを当然のことのように受け止めています。

なるほどKに友達というほどの友達は一人も居なかったのです。往来で会ったときに挨拶をするくらいの者は多少ありましたが、それらだって決してかるたなどを取る柄ではなかったのです。(本文より)

いや、ショック受けようよ!友達が、目の前で「友達なんか一人もいない」と言っているのに、どうして平気な顔して(へー、そうなんだ。そうだったんだ)と思えるのか。

多分先生は無意識に自分を除いているのでしょうが(先生の他には一人も居ない、と受け止めている可能性がある)友達居ないの?と聞かれて、一人もいないと、わざわざ強調するKに、少し薄ら寒いものを感じます。

だって目の前に、自分を窮地から助けてくれた先生が居るのに。

幼馴染の目の前で、友達は一人もいないと、あなたは言いますか?しかも、一人も、という強調込みで。

普通、友達は一人も居ない、って発言は、「お前は俺の中では友達では無い!」という宣言のように思えてならないのですが。

少なくとも、Kの中で先生は友達ではなかったということです。

では、どういう存在であったのか。ここではまだ分かりませんが、少なくとも友達では無いことを頭の片隅に置いておいてください。

奥さんが驚くのも道理ですよね。先生の立場は?と思っていたら、先生は先生で、そうだったのかと納得している。

では、あなたたちはどんな関係なのだと、側から見てたら突っ込みたくなります。

【かるた中の先生の態度】

そして、2人ともかるたをやるような友人は呼べないという話の流れになって、先生とお嬢さん。そして、Kの3人でかるたが始まりました。

Kはかるた遊びや百人一首をよく知らない人です。しかも遊んだことがほとんど無いので、全く上手く出来ず、しどろもどろ。

なので、お嬢さんがそこに加勢をするようになりました。

私の言葉を聞いたお嬢さんは、おおかたKを軽蔑するとでも取ったのでしょう。それから目に立つようにKの加勢をしだしました。しまいには二人がほとんど組になって私に当たるという有り様になってきました。(本文より)

目に見えてKを応援しだしたお嬢さん。

軽蔑って、先生はどんな態度だったのでしょうか?常日頃、K の方が上だと思っていた先生です。かるたであったとしても、自分が知っていて、Kの知らないものがあったのかと思えることが少し嬉しくて、優越感が態度に出ていたのでしょう。

お嬢さんが思わずKに肩入れするほど、応援の度合いがすごかったのならば、先生の態度が非常に悪かった。Kが可哀想になる程だったと考えるのが普通です。

お嬢さんがらみになると、先生は感情のセーブが効かなくなっていた。また、そのことに無自覚だったと分かるエピソードです。

要するに、お嬢さんが好きだったということが周囲にバレバレだったという事が伝わってきます。上巻の未来の奥さんを呼ぶ声も、青年が側で聞いていても分かるくらいに優しかったというのだから、感情が外に出やすい人だったことは間違いありません。

きっと、この時もあからさまに優越感に満ちていた態度が、お嬢さんがKに加勢して、不機嫌になっていったのが目に見えてわかったのでしょう。

私は相手次第ではけんかを始めたかもしれなかったのです。幸いにKの態度は少しも最初と変わりませんでした。彼のどこにも得意らしい様子を認めなかった私は、無事にその場を切り上げることが出来ました。(本文より)

けんかをしてしまいそうなぐらい、不機嫌だった。それぐらい、沸騰寸前だった。怒鳴りだしたいくらい、腹が立っていたのです。

目の前の、Kを応援するお嬢さんの姿に。

けれども、決定的に怒らずに済んだのは、Kの態度が全く変わらなかったから。

多分、ぼろ負けをしても、たとえ勝ったとしても、Kにとってはどうでも良いことだったのでしょう。それはそれでムカつく態度だと思うのですが、Kも変です。誰かが味方についてくれるというのは、気分がいいもののはずですが、Kにはその態度は認められなかった。なぜでしょうか?

ここは、大きな疑問です。

この後の恋の告白と、このかるたのお嬢さんの加勢に全く反応を見せなかったK。

本当に同一人物かと思うくらい、乖離して見えます

好きな人が味方をしてくれる。これほど嬉しいことはありません。なのに、Kの態度は嬉しそうでは無い。最初と全く変わらない。

非常に不自然です。

けれどこの時はまだ先生はKの告白を受けていないので、その不自然さには気が付かないのです。

Kはお嬢さんといる時。態度は全く普段と変わらないのです。少なくとも、先生の目には、目立った変化は感じられなかった。

なのに、Kはお嬢さんに恋をしているという告白に、小説の内容は続きます。

好きな人と会ったり、話したり、味方してもらったりしても、態度が一切普段と変わらない。興味を向けていない。

そんな事って、有るのでしょうか?

【Kの恋の告白】

お正月明けの日々。

お嬢さんと奥さんが新年の挨拶周りで出かけていて、留守の時に衝撃の告白がKから行われました。

Kは先生にしきりに奥さんとお嬢さんのことを聞きます。込み入った話も問いかけられ、答えるのが面倒と感じるよりも、先生は不思議さに囚われます。

だって、あのKです。人のことなどどうでもいい。学問の真理が全てと言っても良いほど、勉強に明け暮れている彼が、どうして2人のことをここまで執拗に聞いてくるのか。

不思議でならなかったと思います。

そして、衝撃の告白に続きます。

だから驚いたのです。彼の重々しい口から、彼のお嬢さんに対する切ない恋を打ち明けられたときの私を想像してみてください。私は彼の魔法棒のために一度に化石にされたようなものです。口をもぐもぐさせる動きでさえ、私にはなくなってしまったのです。(本文より)

切ない恋を告白された先生。

化石にされたようなもの、と本人の談ですが、それ以前にも感情がすぐ表に出てしまう傾向があった先生です。きっと、驚きで固まってしまったのは目に見えるほど、衝撃を受けたのでしょう。

そうして、すぐしまったと思いました。先を越されたなと思いました。(本文より)

Kに先を越されてしまった。お嬢さんが好きだと言われてしまった、ということです。

この時に、実は私もそうなんだと言えたのならば、この後の展開も違う未来になっていたはずなのですが、先生はただ驚くばかりで何も出来ませんでした。

そして、Kの告白は続くのです。

彼の自白は最初から最後まで同じ調子で貫いていました。重くて鈍い代わりに、たても容易なことでは動かせないという感じを私に与えたのです。(本文より)

Kの告白を聞きながら、苦しくてたまらなく、また、その容易なことでは動かせない彼の覚悟を感じ取り、恐ろしさまで先生は感じとるようになります。

つまり相手は自分より強いのだという恐怖の念が兆し始めたのです。(本文より)

Kが自分より強い。どういう意味で強いのかを考えてみましょう。

Kは猪突猛進タイプです。

思い込んだら一直線で、一人で何事もやり遂げてしまう実践の人です。

対し、先生は理論派です。行動よりも、理論。すっきりとした濁りがない、清純な状態。疑いようもなく、確実性がはっきりと見えるまで、行動に移さない人です。

と言うことは。

恋という、ある意味先んずれば人を制す分野での勝負では、行動派のKが動き出してしまえば、動かない自分よりも想いを遂げてしまう可能性が高い。

このままだと、決心が硬く、ためらいなく行動に移すKは、確実にお嬢さんが手に入る保証がなくては告白もできない自分よりも、よほど強い意志と勇気を持っていることがわかり、このままではお嬢さんを奪われてしまうのではないかと、恐怖が襲ってきた、ということです。

強い、という意味を確実に記述してください。どんな風に強いのか。先生は、何がKに負けているのかを書くことが、必須です。

【Kの行動の不自然さ】

さて。ここまでKの恋心の告白までのシーンをまとめてみましたが、このKという人物。

本当にお嬢さんが好きなのでしょうか?

好きであるのならば、火鉢のシーンで解説した雨の日の散歩のシーンや、かるたのお嬢さんの加勢のシーン。

全く普段と変わらない彼の姿は、何を意味しているのか。

ある意味、先生はお嬢さんがKを好きになるかもしれないとは思っていましたが、Kがお嬢さんを好きになるとは全く思っていなかったのです。

それは、Kの態度が全く変わらなかったから。普段と同じだったからです。

切ない恋を胸に抱えて、好きな相手に対して態度が全く変わらない、ということはありえるのでしょうか?

さて、今日はここまで。この、Kの態度の不自然さを良く、覚えておいてください。

明日は、Kの告白を聞いた先生の動揺と、脳内会議の解説です。

ここまで読んでいただいてありがとうございました。

続きはこちら⇒小説読解 夏目漱石「こころ」その6~魔物Kの恐ろしさ~


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