小説読解 太宰治「走れメロス」その8~善人の仮面を被った卑怯者~


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こんにちは、文LABOの松村瞳です。

皆さま、フレネミーって言葉。知ってますか?

完全な造語ですが、英語のフレンド(友達)+エネミー(敵)を合わせた言葉。つまり、敵は味方のフリをして最初は近付いてくる、という意味です。

孔子も論語の中で、「巧言令色少なし仁」と語っている通り、最初からニコニコと嫌に人当たりが良く近付いてくる人と言うのは、注意が必要だということ。

その仮面の下にどんな表情を隠しているかは、誰にも解らない

そんな人物がメロスにも登場します。

ある意味、ストレートに悪役なディオニス王よりも性質が悪い、登場人物。それは、……セリヌンティウスの命を救うため。そして、信頼を守るために必死に走っているメロスを引きとめる人物。

セリヌンティウスの弟子である、フィロストラトスです。

【その不審な行動】

復路で様々な困難があったメロス。旅立ちの余裕さはどこ吹く風です。疲労困憊、その上に時間は残り少ない状況で、けれどもメロスは必死に走って走りぬいて、時折息が上手く吸えずに血を吐きながら、それでも走り続ける。セリヌンティウスを殺させないために。自分を待っている友の許に、彼は走ります。

そのメロスにシラクスの街の塔楼が見えてくる。

つまり、街外れまで来ている。あともう少し。夕日を受けてきらきらと光っているその塔。まだ間に合います。まだ、日は沈んでいない。

そう思いながら、走るメロスの耳に、うめくような声が聞こえてきます。

「私はセリヌンティウスの弟子だ」という、フィロストラトスの声。彼は若い石工です。

メロス達よりも少し年若なのでしょう。そのフィロストラトスが言います。

「もう走るのは、やめてください」と。

フィロストラトスは続けます。

「あなたを恨む。あなたは遅かった。今、セリヌンティウスさまが死刑になるところだ」と。

「ほんの少し、もうちょっとでも、早かったなら!」

それでも日はまだ沈んでいないと、走るのをやめようとしないメロスに、再度言います。

「やめてください。走るのはやめてください。今はご自分のお命が大事です。」と。

【その言葉の裏側に隠れたもの】

この行動のどこが不振なのか。いつも、生徒にこのフィロストラトスの行動を説明する時に、「これ、とってもおかしいよね」と語りかけます。

そう。フィロストラトスの行動は、どう考えてもおかしいのです。どこがおかしいのか。ちょっと考えてみてください。別にどこも不審な点はない、と思う人も、違った観点から読む目を養うために、無理矢理でも良いので立ち止まって考えてみてください。

この、若い石工の行動。そして発言の不審な点を。

 

 

 

 

 

 

 




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はい、解答です。

このフィロストラトスはセリヌンティウスの弟子です。つまり、会社で言ったのならば上司と部下。学生で考えるのならば、先輩と後輩、でしょうか。仕事を教えてくれる人であり、あのメロスと長年友達で居られるセリヌンティウスです。こんな無理矢理な要求にこたえていることから考えても、かなり温厚な性格であることは推測できます。(大抵とんでもない性格の主人公の傍には、苦労人の一般人が居ますよね……ホームズの横に居るワトソンとか、その他大勢。定番ともいえる組み合わせですね)

そんなセリヌンティウス。仕事もきっと真面目だったんだろうなぁ……と思うと、部下にもそこまで厳しく、熱血に指導していることは想像できません。穏やかに生活していたことを考えると、その弟子のフィロストラトスとの関係も、そんなに険悪ではなく、良好なものを保持していたと考えるのならば……

その師匠が不当な理由で捉えられ、あまつさえ友人の罪の身代わりで磔になって処刑されることになるのだとしたら……普通は処刑場に居て、王に処刑を思いとどまってくれるように、願い出るのではないでしょうか。

願い出る勇気が出ずとも、メロスが来ることを信じているセリヌンティウスを励ましたり、メロスが来るのを確認するために、処刑場と町の出入り口を往復してみたり、迎えに走ったりするはず、なのではないでしょうか。

けれど、フィロストラトスが居たのは、町外れです。

そして、メロスを見つけるやいなや、「走るのをやめてくれ!」と何度も繰り返している。「あなたの命の方が大事だ」と、最もらしいことを口にしながらも、セリヌンティウスの処刑を止めるための行動とは、程遠いことをしている……

【人間の本性は言葉ではなく、その行動に出る】

その人の人となりを見抜きたければ、言葉よりも行動に注目するのが一番見抜くポイントだと言われます。

例えば、セールスマンで盛んに商品をお買い得だと勧めている人が居るとして、お客さんには盛んに勧めているものを、実際にその人本人が買っていることは、稀です。

金融商品などで「お買い得だ」と言っていて、「絶対に損はしない」と豪語しているセールストークをしているのを耳にすることがありますが、絶対に損をしないならそれを勧めている本人は買っているのかどうかを確認すると、殆どの人が手を出していなかったり、その人が所属している会社がその金融商品に全額かけているかどうかを確かめてみれば、簡単に真実が解ります。絶対に儲かるのならば、全ての資金を投入しても良いはず。それをしていないのは、「絶対に儲かる」という言葉が、偽りであるからです。

フィロストラトスも同じです。

毎日を一緒に過ごしていた師匠が、身代わりの罪によって処刑される状態なのに、本人は町外れに居る。

これは、どう考えてもセリヌンティウスの身近な人間であるから、メロスの友人であるセリヌンティウスが身代わりの罪を着せられたように、今度は自分に禍が降りかかってくるかもしれない事を恐れて、町外れに居て難を逃れようとしていたのでしょう。

そうでなくては、意味が解りません。

町外れに居ただけなら、師匠の死ぬところなど見たくない。そんなものは直視できないと絶望し、気が付いたら町外れにまで来てしまっただけだと思えますが、そんな心境でメロスの姿を見つけたならば、嬉々として「間に合いました! こちらです!!早くっ!! 早く行って、セリヌンティウスさまを助けてくださいっ!!」と叫ぶのではないでしょうか。

ですが、フィロストラトスが叫んだ言葉は、「もう駄目です。無駄です。走るのを、やめてください」です。

これは、どう考えればいいのでしょうか。

【人は自分が悪いことをしていると自覚があるときに仲間を欲しがる】

フィロストラトスは、セリヌンティウスの処刑を止めようとはしていなかった。もしかしたら、その死を望んでいた節もあります。(おそらく、仕事が全て自分にまわってきて、賃金が上がるから)そこまでいかずとも、禍が自分に降りかかるのを避けようとした。

そう。逃げたのです。

そんな状態の中。メロスが間に合って、セリヌンティウスが助かったとしたならば、その場に居なかった自分の存在は、どう思われるでしょうか?

きっと、逃げたのがばれてしまう。責められずとも、温情のない薄情な奴だと責められるかもしれない。自分の立場が悪くなってしまう。ならば、どうすれば良いのか。どうなれば、自分の立場を守れるのか。

そう思った彼が取った行動は……

メロスを自分と同じようにセリヌンティウスを見捨てた仲間に引きずり込むことです。

「ご自分のお命が大事」と言いながら、フィロストラトスが大事だったのは、自分の命です。そうでなければ、この町外れに居る理由が解りません。

処刑はまだ終わっていません。少なくとも、フィロストラトスは見ていません。ならば、セリヌンティウスが助かる方法を取っても良いはずなのに、彼は登場シーンから助けることを諦めています。あまつさえ、メロスに諦めさせようとしています。

あくまで、メロスのため。あなたのため、と言いながら、その実「自分のため」に言っているのは、その行動をみれば明らかです。

【人の為、と書いて、偽りと読む】

言葉は怖いです。

人の為、と書いて偽り。つまり、嘘と言います。

「あなたのためなのよ」「あなたのためです」と口にした瞬間。少し考えてみてください。

そう言いながらも、本当はその言葉の裏には、自分の利益が隠れていませんか?

太宰はそれを示すために、このフィロストラトスを出したような気がしてなりません。

醜い、責任転嫁の人間の後ろぐらい部分を描き出すために。

 

明日は、メロスの本題。何のためにメロスは走るのか。その解説とテストで必ず問われる言葉の意味を解説します。

 

ここまで読んで頂けてありがとうございました。

続きはこちら

小説読解 太宰治「走れメロス」その9~もっと恐ろしく大きいものの正体~

 


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