裏切りの構造 その2  環境で人は豹変する恐怖 この人だから大丈夫は大ウソの理由

コミュニケーション術

こんにちは、文LABOの松村瞳です。

皆さま夏の連休はいかがお過ごしでしょうか。例年になく涼しい気温が続いていますが、地域によっては猛暑が引き続いているところもあるかと思います。夏もあともう少し。体調整えて、夏休みの最後を楽しみましょう。

 

そんなこんなで、人が環境で豹変してしまうと言う、ちょっと怖い話。

実際に行われた伝説的な心理学のお話です。

普通の人がどうやって悪魔に変わってしまうのか

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【スタンフォード監獄実験】

1970年代に、アメリカ国内だけでなく、世界的な有名なスタンフォード大学で行われた心理学の実験です。心理学者の重鎮でもある、フィリップ・ジンバルドー博士が行ったもので、刑務所を模した倉庫で、普通の人間が特殊な環境下に置かれてしまうと、どう心理状況が変化し、どのような行動をしてしまうかを試した実験でした。

環境が人間に影響を与える。誰もが漠然と知っているその真意を、ジンバルドー博士はこの実験を行う事で、科学的に証明しようとしたのです。一部の特殊な性癖を持つ異常者では無く、あくまで平均的な、「普通の」一般人がどれほど豹変してしまうのか。実験の焦点はそこでした。

新聞広告などで集められた被験者は21人。集められたその若者たちを、無作為に囚人と看守役に振り分け、独房に見立てた小部屋に監禁し、スケジュールに沿った行動を取らせました。そして、彼らの精神状況がどう変化していくかを詳細に観察しました。

そして、その結果は……

人を殴った経験も無く、罵った経験も無い。どちらかと言うのならば善良と判断して良い若者たちです。ですが、看守役に振り分けられた人々が、実験下で過ごしていくうちに、驚くほど早い段階で豹変をし始めました。囚人役に振り分けられた人々に、より屈辱感を与えようと素手でのトイレ掃除を強要し、罵倒やいじめ、違反したのならば腕立て伏せなどを要求し、その背中に土足で乗るなどの体罰を与え、最後には禁止されていた暴力もふるうまでになってしまいました。

ジンバルドー博士の命令ではありません。彼らは「自分」「すすんで」看守役の務めを果たそうと、罰を囚人に与えていきました。彼らが本当に犯罪を行ったわけではなく、ただ無作為に選ばれただけの一般人です。その事実は看守役も知っていますし、これが現実ではなく、ただの実験だという事も知っていたはずなのに、その行動はエスカレートしていきました。

囚人役に振り分けられた若者たちは精神的に追い詰められていき、精神錯乱を起こして一人は離脱。更にもう一人も独房部屋に入ることを自分から望み、その後精神的な限界を迎え、離脱。

常に観察を行っていたジンバルドー博士はその結果に驚愕しながらも、日々、驚異的な早さで変化を続けていく人々の精神状態に飲みこまれ、看守たちの行動を止めずに実験を続行。協力者である牧師が、余りにも危険だと被験者の家族へ連絡。二週間と予定されていた実験期間は、たった6日間で中止されました。

けれど、看守役の若者たちは、「話が違うっ!」と、実験を続けることを強く希望したと、実験結果は残っています。

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-実験の結果-

この実験は、世界に衝撃を与えます。

あくまで「普通」の人間が、仮にとは言え、強い権限を与えられけてしまうと、元々の人格とは全く違う性質を短期間で見せ、人が変ったように豹変し、命令も無いのに暴走してしまう。更には、それを自分の意志で「すすんで」行い、罪悪感も何も抱かず、寧ろ当然の行為だと眉を顰める様な行動をしてしまうという、驚愕の事実です。

被験者たちはこの実験後、後遺症に悩み、10年以上ものカウンセリングを受け続けました。環境が変わり、冷静になればどうしてあんなことをしてしまったのかと思えますが、その行為の最中は、それを行う事が正しいことだと思いこんでいたのです。

どんな温厚な人でも、です。

環境が人を変えてしまう。自分が正しい事をしている、権力があると思い込んでいる時、人はどんな残虐な行為でも出来てしまう。

これをジンバルドー博士は『非個人化』と名付けました。

元々の性格は関係なく、役割を与えられただけで、違う人格者のようになって振舞ってしまう。そんな状況に人は陥ってしまうのです。それをするのが正しい。誰かが自分がそうすることを望んでいると思ってしまうと、相応しい行動を取ろうとしてしまうのです。

ユダは、反イエスの勢力からイエスを裏切る役割を要求されました。

ブルータスも元老院から、カエサルを裏切れと望まれた。自分達の側に立てと。

ユダは確かにイエスに不信感を抱いていた。ブルータスも、カエサルの強引さに反感を抱いていたことでしょう。けれど、彼らを決定的に動かせたのは、この外からの要求。切っ掛けです。

環境と切っ掛けさえあれば、人は簡単に人を裏切ってしまう。そこに人格は問題とされていないのです。個人の性格は、あくまでも健康的で健全な状況、環境の許で発揮されるものであり、環境が異常であるのならば性格は関係が無いのです。

ジンバルドー博士本人によるスピーチ。いかに簡単に人が豹変してしまうのか。それを詳細に説明してくださっています。日本語字幕。

 


ジンバルドー博士本人による監獄実験の詳細なデータを公開した本。
(Amazonサイトに繋がります)

 

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この実験をモデルとして作られた映画(Amazonサイトに繋がります)

 

【人は皆、裏切る存在である】

誰であっても、どんな関係性であったとしても、人は人を裏切る。

それは戦慄する様な事実かもしれません。違うと否定したくなる人も居るでしょう。私も、ジンバルドー博士の研究書を読み終わるまではそう思っていましたが、事実はどうやら違うようです。誰の心にも、鬼や悪魔が棲んでいる。それが、真実です。

それは自分の周囲の人間だけでなく、私達自分自身も、誰かを裏切る存在に成りうる、という事です。自分は絶対にそんなことをしない、と思っても、それはただの願望です。誰もが人を裏切ってしまう存在だと言う事が、そののち様々な心理学実験で浮き彫りになっています。

しかし、絶望の底には希望があるものだし、見方を変えれば違う受け取り方も出来ます。

つまり、環境と切っ掛けが合わさらないと、人は人を裏切ることは有り得ない。外部からの切っ掛けを完全に防ぐことは不可能ですが、環境を整えることは努力で何とか成るものです。

人を裏切らない、人に裏切られないようにしたければ、裏切らせる様な環境を作らない。相手との信頼関係を強固にすることを、常に頭に置いておくのです。

-君子危うきに近寄らず、は正しかった-

論語に、「徳の高い人は、危険な状況に自分を近寄らせない人物である」という言葉があります。

高校の時にこの言葉に初めて触れた時、私は、君子は安全な道しか選ばない、一点の曇りも無い人間なのだろうか。清廉潔白な人物でなければならないのだろうか。後ろ暗いことを考えてはいけないだろうか。だったら、自分は君子に成る事など出来ないなと、当時は考えていました。

けれど、このスタンフォード監獄実験を知った後、この言葉が違う意味で受け取れます。

人間は自分が危うい状況に晒された時、正しい判断が出来なくなる。不安定な状況下では、人を裏切るような行為や、後で冷静になった時に考えたら、自分とは思えない行動を取ってしまうかもしれない。

自分が一番信用出来ない。不安定になった時、何をしでかすか解らない。だから、そんなことで後悔をしたくないから、危うい状況に自分を置かない。危うい環境に自分の周囲がならないよう、安定した状況を作り上げる努力をしておく。

危険な状況を避けるのは、安全な道だけを進みたいからでは無く、自分を冷静に保つために打てる手は打っておく。自分も含めて人は信用が成らない。いつ何時、間違ったことをしでかしてしまう可能性がある。それを熟知したうえで、間違った選択をしないよう、最善の努力をしておく。

人は、危機感を抱いて初めて、対策を取ると言います。「自分は絶対大丈夫!」などという自信は、根拠のないものです。過信は、慢心に繋がり、出来る努力を放棄してしまう原因にもなる。だからこそ、自分を感情に振り回されない冷静な状況に置いておきたいなら、危うい状況に自分を置かない。

人を信頼したいのなら、その人と自分を含めて、不安な状況や環境に置かない努力をする。

それを全てした上で裏切られたのならば、その時は相手から離れろという合図です。大丈夫、それだけのことが出来るのならば、もっと良い人が必ずあなたに訪れます。

 

【人は鏡】

人を裏切らないために。そして、誰かから裏切られないようにするために、先ず自分の精神状態を安定させましょう。

不安定な人は、不安定な人を周りに呼び寄せてしまいます。

安定した人は、安定した人を自然に呼び寄せますし、安定をしたいのならば、安定しているなと思う人の所や集団に自分の身を置く努力をしましょう。

私達は、環境に多大な影響を受けます。

悪くも、良くもです。ならば、その環境の力を良い方へ使う事が、最大限個人で出来る努力です。

それを確認しながら、安定した状況に自分をおきましょう。そして、信頼関係を周囲と構築していく。誰もが裏切る可能性があるのならば、それを出さない努力を続けていく。それをしていけば、その努力を認め、同じ様に努力をしている人が傍に集まってきます。

 

事実は時に残酷です。

けれど、残酷だからこそ、解る事もある。取れる手段も、解ってくる。

相手を変えることはできません。そして、自分に出来ないこと。解らない事も、事実存在します。だからこそ、出来ることを。自分にコントロール出来ることを精一杯行っていく。何をすべきかを、自分できちんと考える。それを、胸に刻みたいと思います。

 

 

ここまで読んで頂いてありがとうございました。

 

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