こんにちは、文LABOの松村瞳です。
久方ぶりの漢文解説。今日は論語です。
論語って、何言ってるのかよく分からないし、短いのに訳は全然違う意味だったりするし、聖人君子って超人だよね。こんなの成れないよ!邪なこと考えててごめんなさいっ!って気分になるから、あまり好きではなかったんですよね。
でも、社会人になって改めて読み返してみると、学生の時とは違って読むことが出来ます。
生きる為に、明日も頑張るための知恵やアドバイスを、お爺ちゃんに教えてもらってるような気分になるのです。
と、言うことで、いつものごとく解釈は少し斜めからです。
けど、論語ってそれが1番必要な文章かもしれません。難しい、の一言でスルーしてしまうには、あまりに勿体無い内容が詰まっています。
2000年以上残ってる書物だから、それだけでも物凄いベストセラーですものね。
今回は、顔淵の政治についての文面から。
【子貢問政 書き下し文】
子貢政を問ふ。
子曰く、「食を足らしめ、兵を足らしめ、民之を信にす。」と。
子貢曰く、「必ず已むを得ずして去らば、斯の三者に於いて何をか先にせん。」と。
曰く、「兵を去らん。」と。
子貢曰く、「必ず已むを得ずして去らば、斯の二者に於いて何をか先にせん。」と。
曰く、「食を去らん。古より皆死有り。民信なくんば立たず。」と。
【訳文】
子貢が孔子先生に政治について尋ねた。孔先生はこう答えた。
「食べ物が充分に手に入る状態にし、軍備を整えて治安を安定させ、主君が民衆に信頼されることだ。それが政だ。」
子貢はもう一度訊いた。「では、その3つのうちで、やむを得ず諦めなければならない物があるのなら、どれでしょうか?」
孔先生は答えた。「軍備だな」
子貢はさらに訊いた。「ならば、その2つのうちで、どうしても諦めなければならない物は、どちらでしょうか?」
孔先生は答えた。「食糧だろうな。人は寿命という物があり、必ず昔から死んでいる。だから、選ぶのならば飢え死にの方だ。しかし、民衆からの信頼を失ってしまえば、何事も成り立つはずもないのだ。」
【解説 人の根本は「信義」】
孔子の弟子との問答です。
孔子は、積極的に弟子たちと話し合うことを好みました。
この辺は、洋の東西を問わないようですね。ソクラテスも弟子たちとの会話を好みましたし、弟子たちからの質問に答えることを、殊の外楽しみにしていたと言います。
で、本題に戻って政治の話です。
先生ー!政治って何ですか? と訊かれて、スパンと一言で答えられる人が今、どれだけ居るでしょうか?
抽象的なことは誰でも言えると思いますが、孔子の答は具体的で非常にシンプル。けれど、シンプルが故に、それは真理を突いていて、2000年以上経った今でも通用する理論です。
ポイントは3つ。
兵と食と信。
この3つだときっぱりさらっと言う。
治安が整えば、人は働くのが楽になる➡︎働けばきちんと食事《給料》が貰える➡︎生活が安定して精神も安定し、執政者に対して信頼を持つようになる、という、とっても単純でわかりやすい論理です。
でも、確かにそうですよね。
戦争状態、若しくは災害が絶え間なく襲ってくるときに、誰も助けてくれない状況で、更には食べ物もない。飢えて死んでしまうかもしれないときに、誰かを信じろと言われても、難しいです。普通なら、だったら先に米を食わせろ!と反発するのが当たり前の世界。信頼してもらいたければ、信頼に足る行動を取らなければなりません。
その具体的な行動として、治安を良い状態にし、働いたらちゃんと食事にありつけるような社会システムを作る。そうすれば、信頼は集まってくる。信頼が集まってくると、色んな事がやり易くなり、結果、統治するために必要なことを民衆が聞き入れてくれるようになる、という、本当に単純すぎる真理。
でも、これを実現できた君主はとても少ない。2000年もの間、達成できた君主はほんのわずかです。
で、頭の良い子貢は、孔先生に気に入られようと必死です。更に追加質問。
ちょっとぐらい困ってくれよ!必死で質問考えたのにっ!と焦ってる顔がちょっと見えます。そりゃそうですよね。一瞬で質問終わっちゃったら、考えた意味がない。
この3つが大事なのはわかりました。なら、この3つの中で、更に大事なのは何なのか。優先順位を決めるなら?と訊いたら、それに対しても孔子の答はシンプルです。
大事な順番は、信➡︎食➡︎兵。
信頼が最も大事。その次に、食事。そして、最初に切り捨てるならば、兵だと言うのです。
信と食は本当に難しい。食が無くなれば、いずれ信も無くなっていく。
けれど、食を満たすために信を疎かにしてはならない。信頼を失ったら、何をやっても上手くいくはずが無いのだから、信頼に足る行動をしなくては、と言うのです。
この順番は、驚くべきものです。何故ならば、多くの人は、この信頼を真っ先に捨ててしまうからです。
【政とは人の治め方】
孔子の言葉は、国の治め方を言っているようで、その実人の治め方。つまり、自分自身という人間の治め方を教えてくれています。
自分自身を願う方に向かわせたいのならば、3つを守れ。
きちんと身体を休める場所を確保すること。
食事をちゃんと取れるように、稼ぐ力を持つこと。
自分自身を信頼すること。
そうすれば、物事は上手くいく、と言っているのです。
この時も順番はハッキリしています。
どうしても駄目なら、先ず住居を諦めろ。そして、次に諦めるなら、食事を。何があっても、自分に対して疑念を抱くような事はするな。自分で自分を信じられなくなったら、何も上手くいかないぞ!と言っているわけです。
国家、政治、となってしまうと話が大きくなり、自分には関係がないと思いがちですが、自分個人のことまでトーンダウンすれば、話は簡単です。納得もいく。
けれど、現在。多くの人は、この自分を信頼することを、真っ先に諦めているような気がしてなりません。
受験で、困難なことに挑戦しようとすると、挫折し、真っ先に心を折ります。
ああ、自分はやっぱり駄目だったんだと。
そして、大概そういう風に絶望しているときは満足に食べても無ければ、寝ても居ません。それで、自分や誰かを信頼しようなんて、出来るはずもない。
絶望し、諦めていたら、どれだけ食と兵を満たしても、無意味です。どうせまた駄目でしょう?と、自分自身が反乱を起こします。
面白いのは、この3つ。
1つは目に見えないもの。
残り2つはわかりやすい、目に見えるものです。
どれを重視するかは人それぞれですが、物事を達成させたいのならば、先ず信じるに足る行動を取ること。これは、人に対してもそうですし、自分に対しても、です。
この行動が誇れるものなのか。自分を大事にしているか。
大事にするという事は、怠けさせる事ではありません。誇らしい行動をとっていると、常に自分に対して花丸が付けられるような行動をとっていく。
そのあとは、食と兵。食事を満たし、リラックスできる場所を確保すれば、物事は必ず良い方向に進んでいく、という言葉です。
もし、何かが停滞していると思うのならば、チェックしてみて下さい。
ちゃんと眠れてますか?
食事、美味しく、心配なく取れてますか?
そして、自分の力を信頼してますか?
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
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