変貌する聖女 論理国語 解説

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変貌する聖女 解説

第8段落〜第10段落

では、引き続き例示から展開して、筆者が伝えたかった内容へと進んでいきましょう。

新しい角度から語られ始めた女たち

アメリカの文学研究者であるキャロリン・ハイルブランは、1970年を「女性による女性の伝記の転換年」と規定しています。(本文 第8段落)

不思議な偶然なのですが、キュリー夫人の伝記を書いたエーヴも、女性が女性の伝記を書いた例示です。転換年と書いてあるのは、それまでとは違った描き方をするようになった年代、という意味。

前の例示から引き継いで考えると、過度な造られた「聖女」像から、都合の悪いことも含めた実際の姿を描くようになったムーブメント、と受け取ることができます。

つまり、女性が女性のことを語る時、そこには強い「バイアス」=偏向がかかっていた、と筆者は言いたいわけです。エーヴが母のことを伝記で描いた時、個人的な事情があったとはいえ、故意に世間にウケの良い「聖女」を創り出しました。捏造、とまでは言いませんが、キュリー夫人の実際の姿ではなく、世間の(そして自分たちの)望む「キュリー夫人」を描き出し、その理想に当てはまらない姿は、敢えて書き出さなかったのです。

この、「世間の望む女性像」というのが、バイアス。偏向です。歪んだ視界で、女性を見てしまっている。それは男性の視線からはもちろんですが、同じ同性である女性側から見ても、偏見に満ちたもので語られていました。

その偏見に満ちた女性像を取り払おうとする動きが起きてきたというのです。

これを「新しい角度」と筆者は語ります。

すでに有名で、ある意味偽りの世間ウケが良いイメージが定着している存在に対し、今までとは違う視点で語られるようになる。

例えば、ここで例示に挙げられているナイチンゲールですが、白衣の天使の異名がついている彼女。実際の姿を知ると、とんでもなく厳しい人です😅 天使?? そんな生優しい言葉では片付けられないくらい有能な実務家ですし、厳しい教育者、と表現した方がピッタリくるエピソード満載の方です。(まぁ、そうじゃなきゃ、あんな偉業成し遂げられないと思いますが😅)きっと一緒に仕事していた医療従事者の方々にとっては恐怖の対象だったんじゃないかなぁと思うわけですよ。その仕事量の膨大さと、厳しい言動の数々が残っているので、言い訳なんか通用しなさそうな強い女性の姿が見えてきます。

どちらかと言うと、天使というよりは、有能な実業家のイメージです。病院という組織をいかに効率的に回し、患者を回復に導くために指導するべきか。その膨大なマニュアルを作成して実践、実現したという鬼の仕事人間です。(書いてて怖くなってきた‥‥)

そんな姿、子供に読ませたら恐怖でしかないと思うので、今でも「白衣の天使」のイメージの方が受け入れられやすいのでしょうね。けど、現実の彼女の姿は全く違っていた。

そんなふうに、世間ウケするイメージではなく、現実を描きだそうとする動きが女性たちの中から出てくるわけです。

それはなぜなのか。世間が好意的に受け止めてくれるイメージの方が良いのではないかと思う人もいるでしょうか、これを放置しておくと実は巨大な問題が解決しないまま放置されることを、恐れたわけです。

さて、この「巨大な問題」とはなんなのか。

第二波フェミニズム運動とは

ここで、フェミニズム問題が出てきます。

フェミニズムとは、女性の人権を尊重して、抑圧や差別を問題視する思想と運動を指し示します。

参政権などの法的な権利の平等が問題となったのが第一波。そして、人々の意識の中に潜む女性に対しての偏見や差別が問い直されているのが、第二波です。

第一波の平等を手に入れるのは、わかりやすいです。

何せ目に見える権利なので、無いこともわかりやすいし、実現もしやすく、運動も起こしやすい。

けれど、その権利だけでは社会の問題は解決しなかったから、第二波の動きが起こったのです。

意識の中に潜む、ということは無意識に思い込んでしまっている女性に対しての差別や偏見を問い直す、ということは、長年積み重なった習慣のように、当たり前のこととして女性は「こうあるべき」「こうすべき」逆に「これは選ばない」「ここは興味を抱いてはいけない」という意識の偏向がある、というのです。

男子が理工系に進み、女子が進まない現実

この第二波フェミニズム運動を考えると、第10段落が読みやすくなります。

受験の機会やチャンスを平等にしたというのに、理工系に進む女性が増えないのです。政治的な運動も、女性は参加しない。しても、男子学生の補助にまわってしまう。そして、偏差値の高い大学に進学する数字は、圧倒的に男子が多いのです。

平等な入試が実現されてから二十年以上経っていたのに、なぜこんな違いがあったのでしょう。(本文 第10段落)

わかりやすく、東大の学生の性別差をここで明記しておきます。

平成21年度の入学在学数 前期課程 男子 2559人 女子 590人 
令和5年度の入学在学数 前期課程 男子 2420人 女子 704人(東京大学ホームページより)

14年の時間が経っているにも関わらず、女子の入学数は100人ほどしか増えていません。けれども、OECD(経済協力開発機構)がおこなっている世界的な学力調査のPISA調査では、15歳時点では男子よりも女子の方が学力では全般的に上位である、という結果もあります。

ならば、この東大の在学数の性差はどう捉えれば良いのでしょうか。

誤解を恐れず言うのならば、頭の良い、いわゆる世間が求める女性像を理解でき、計算できる女性たちは高学歴の大学を避ける傾向にある、と筆者は暗に示しています。なぜ、そんなことが起きるのでしょうか。

ここに、女性たちの無意識に潜む偏見。さらには女性だけでない、世間が女性に求める偏見が潜んでいることが問題になっていきます。

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