古文解説「枕草子」~春はあけぼの~

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「春はあけぼの」というフレーズ。

古文が苦手であったとしても、このワンフレーズは日本人であるのならば知らない人はいないと言っても過言ではないほどに有名な一節です。

今回は、義務教育の古文教育の中でも燦然と輝く清少納言の「枕草子」から第一弾冒頭の解説を行います。

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第1段落 春

本文

枕草子 第一弾より

現代語訳

解説

はい。とっても簡単な冒頭から始まっていますし、教科書にも現代語訳が全て載っているので、訳す必要もなく、さっくりと理解できる簡潔な冒頭です。

春は、明け方の時間がとっても良い。

その理由が、明け方の空の色が太陽の光に照らされて、少しずつ色が変わっていく様子がとても綺麗だから。特に、夜から朝に空の色が変わっていって、雲もその色の変化を写し取るように紫に染まって、風に流されている。その様子がとても美しいから、春は明け方が良い、と言い切っています。

この「あけぼの」という言葉。枕草子の中で書かれるのは、意外にもこの冒頭だけ。更には、当時中国からの漢詩の影響で、明け方の表現はどちらかと言うと「朝」の光がみちあふれていく様をあらわす「あけぼの」ではなく、暗い闇の時間から明け方をさす「あかつき」や、「宵」を意識した「春宵」という言葉が主流でした。中国ではどちらかというと、「宵」の美しさの方が強調され(漢詩でも多いですものね。)、「朝」の清々しさにポイントを置いた表現は、まさしく「清」少納言の名前に相応しい言葉の選び方です。

清少納言らしい、と言ってしまえばそれまでなのですが、春を桜や桃、梅、鶯などの鳥の鳴き声といった自然物で表現していた平安文学の中に、「時間」「時」の区切りでその季節を表現した、それまでにはなかった画期的な表現方法でした。

しかも、和歌の音数にはまっているわけでもないのに、読んでみると独特のリズム感にあふれています。

国語のテスト的な要注意部分は「山ぎは」。山のきわの部分のことを指しますが、これは山の一部の事を言っているのでしょうか? それとも、空の、山に接して見える部分の事を言うのでしょうか?

具体的に考えると、すぐに分かります。

清少納言は、「空の」色の変化をこの冒頭で述べています。

なので、「山ぎわ」は、あくまで「空の、山に接して見える部分」がどんどん日の出の光で、白く明るくなっていく、と表現したわけです。そこをきちんと押さえてください。

本文

枕草子 第一段より

現代語訳

夏は夜(が良い)。月が出ている時間帯は言うまでもなく素晴らしいが、(月が出ていない)闇夜であったとしても、やはり、蛍が多く飛び交っているのが見えている(のが良い)。また、ほんの一匹、二匹がほのかに光って飛んでいく様子も趣がある。雨などが降るのも(涼しく過ごしやすくて)良いものだ。

解説

次は夏です。

夏の良い時間帯は「夜」と清少納言は言います。おそらくなのですが、平安時代の日本はかなり蒸し暑かったのではないかと予想されています。寝殿造りって、寒さを耐えられるような建物構造ではないですものね。御簾(今でいうカーテン)で外と中を区切っているだけなので、風通しを重視して建物を作っているところから、相当暑かったんだろうことが予想されます。

その中で、夏は平安貴族にとっても辛い季節ではあったのでしょう。けれど、その中で「夜」が良いと言い切っているのは、「涼しくて過ごしやすくていいなぁ」という意味が含まれています。

風流とか風情とかが根幹にあるのではなく、過ごしやすさ重視の現実的な意見ですが、物事をきっぱり言う清少納言らしいと言えば清少納言らしい意見。月が明るいと見上げて過ごす夜の時間はとても良いし、新月の明かりがなく、闇が暗い夜であったとしても、月の光の明るさにかき消されて見えなくなってしまう蛍の光が見えるから、それもまた良いものだと語っています。

現代のように電気がなく、蝋燭の光も質が悪くて相当暗かったと言われていますから、本当に闇の中で平安貴族は過ごさなければいけませんでした。その中で、明るさを提供してくれる月の光は現在の電灯の灯のように貴重なものでしたし、夜の移動も可能にしてくれました。

それがない新月の頃は、普通だったら嫌がられるものなのですが、その不便な夜であったとしても、良いところを見出そうとする。不便は不便だけれども、それでも見えない闇だからこそ、ほのかな光がはっきりと見えるから、それも良いものだよね、と。

雨もそうです。

普通だったら不便だし、気が重くなるし、なんとなーくどんよりしてしまう雨ですが、それでも夏の夜は涼しい風を運んできてくれるし、暗闇の中で聴く雨音も、心を癒してくれる。

明かりがなくて、視界が暗い不便なことに文句を言うのではなく、その中でも楽しめるものを探して、心地好い時間を過ごす。

そんな彼女の価値観が伺える段落です。

第3段落 秋

本文

枕草子 第一段より

現代語訳

解説

次は秋です。

文LABO
文LABO

清少納言が述べている秋の情景は、現代のものとあまり変わらない風景ですよね。

ここでポイントになるのは、近い場所の空と、遠い場所の空の光景。遠近感です。

時間は、山の端(=山の一部)の部分に夕日がかかってくる時間帯。空が赤く染まり、もうすぐ日の入りの時間帯です。春と同じで、空の描写が多いのは見上げている時間帯が平安貴族は多かったのかもしれません。

その時に、近い場所では烏が数羽、山の方へ飛んでいく光景が書かれています。三羽四羽、二羽三羽と数を変えて何度も書いているのは、それぐらい次々と飛んでいく姿が見えたからでしょう。

さらに遠い空には、雁(がん)が列をなして飛んでいく様子が見えます。雁の習性として、列をなして団体で飛ぶ鳥なのですが、一番先頭を飛ぶのがそのグループのリーダーです。

主に真っすぐについていく姿にもたとえられる雁。

中宮定子に一身に仕えている我が身の姿を、清少納言は投影したのでしょうか。

帰るべき場所に帰る烏。リーダーに従って、列を乱さずに進む雁。今よりも様々な鳥がいたであろう平安時代に、その二つを抜き出して読み込んだのは、ただ印象深く残っていたからだというよりも、何かしらの意図があったのではと思えてきます。

そして、視界が利かない夜が来てからも、秋の楽しみは続きます。

今度は耳です。

風の吹く音。この風は、おそらく秋の初めに吹く強い風の事で、その爽やかさから爽籟(そうらい)という名前もついています。秋の到来を告げる風で、古今和歌集に

古今和歌集 巻四 秋歌上 169番

と詠まれている内容を踏まえた表現にも思えます。清少納言らしい表現ですね。

そして、虫の音。虫の鳴き声です。(厳密にいうと、声ではないですよね。羽音かな?)それらが聞えて来るのもまた、言葉で表せないほどの良さがある、と書いています。

4段落目 冬

本文

枕草子 第一段より

現代語訳

冬は早朝(が良い)。雪が降っている光景は、言葉で言い表すことが出来ないほど(美しいの)だ。霜が真っ白なものも、またそうでない(雪も霜もない)場合でも、たいそう寒い時に、火などを急いでおこして、炭を持って(廊下などを)通っていくのも、冬という季節に似合っていて良い。昼になって寒さがだんだん緩んでいくと、火桶の火が白い灰ばかりになって、好ましくない。

解説

ラストは冬です。

文LABO
文LABO

冬は特徴的で、他の季節には使われていない言葉があります。「わろし」ですね。

雪や霜の「白」の美しさをたたえています。

その「白」が際立って美しいのは、一日の内で一番寒くなる早朝。この「つとめて」という言葉は、「あけぼの」とは違い、日の出があまり関係しない「早朝」の言葉です。「なにかの出来事があった翌朝」という意味もありますが、ここでは単純に「早朝」という意味。

その白い雪や霜が見えなくても、寒いと温かい暖を取りたくなるものです。平安時代は、燃やした炭を陶器製などの桶の中に灰と共に入れて、それを部屋の中に置きました。今でいうストーブです。

その簡易的なストーブを寒い日の朝にたくさん用意して、中宮定子が寒くないように部屋の中に持ち込んで準備をする女房たち(高い身分に仕えている女性たちのこと。清少納言もその一人)が慌ただしく動いている様子が、寒い冬の朝には相応しくて良いなぁと言っているわけです。

清少納言も中宮定子の為に、火桶を抱えて宮中の中を移動していたのでしょう。

けれど、その温かい火桶もめんどくさい部分があります。炭の燃焼時間はだいたい1時間。そこに炭を足しながら時間を延ばすのですが、それでも燃え尽きてしまう時間はやってきます。

昼になって、朝ほどの寒さはないけれど、同じ「白」でも、雪や霜の「白」とは違って、炭の灰の「白」は、本当に違うなぁ。心がウキウキするどころか、「あーあ、燃え尽きちゃった」と残念な気持ちになる。

それが嫌だなぁと、冬の好ましい「白」と好ましくない「白」を対比で述べています。

好きなものと、嫌いなものをきっぱりと表現する。これは良いんだけど、ここが玉に瑕なのよね、と良いところばかりではなく、ちゃんとダメな部分も語っている。けれど、だめだから「嫌い」なのではなく、ちょっと面倒だし、嫌だけど、でもそれも「冬」だから感じるものなのよね、と愛おしさが滲んでいるようにも思います。

他の季節には感じられない気持ちですものね。

まとめ

義務教育で必ずと言っていいほど読まれる「枕草子」

日記や物語、和歌以外には漢文調の文章が主流だった平安時代に、「随筆」という、自分の感覚で物事を述べた新しいジャンルを切り開いた才女・清少納言。

彼女の聡明さが輝いている文章を、ぜひ古文で音読してみてください。

ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。

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