小説読解 太宰治「走れメロス」その3~主人公の行動を客観的に観る方法~


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こんにちは、文LABOの松村瞳です。

突っ込みどころが多い「走れメロス」の解説第3回。

相も変わらず、学校の授業では絶対にやらない読解を進めていきたいと思います。

国語の能力って、漫才のボケと突っ込みならば、確実に突っ込みの役割になります。

「それってさぁ……」と、冷静に突っ込む視点とは、没頭している時には得られないもの。もちろん、娯楽で読む分には没頭していることは大切です。けれど、試験で確実に解答を得るためには、冷静に読む視点というのは絶対に必要です。

その重要さを、メロスを通して書いていきます。

「話せばわかる!」って、ナイフを持っている人に言われて、あなたは信じられますか?

 

【小説は主人公の視線を通して語られているという事実】

小説は必ずと言っていいほど複数の登場人物が存在します。たまに、主人公一人だけ、というものも存在しますが、それでも全く周囲の人や物と関わりを持たずに話が進行することは皆無と言っていいほどです。今は一人であったとしても、主人公のそれまでの生活の中で思い出す中に誰の存在もいない、ということは人間の一生においてあり得ない状況だからです。

小説の語り口は一人称と三人称の二つです。

三人称、と聞くと、英語の「三単現のS」(主語が三人称、単数、現在形の時、動詞にs(es)を付ける)を思い出して「げっ……」と思うかもしれませんが、解ってしまえば単純です。

一人称→僕、私、俺、など会話文以外の地の文の主語が、一人称の単語。主人公一人の視線から見た世界を語るもの。他者はあくまで主人公の視界を通した描写で語られる。「~のように思えた」「~のように見えた」等。行動よりも、主人公が感じた心の動きに焦点を当てる描き方。

三人称→地の文の主語が、「メロス」「セリヌンティウス」「王」などのような登場人物名。様々な人物の描写を、平等に書き表している神の視点。「メロスは激怒した。」「セリヌンティウスは全てを察した。」「王はほくそ笑んだ。」など、平等の視点。感情よりも行動を中心に描写される。

という違いがあります。

小説はこの両方どちらかの描写。または、いったり来たりする性質があります。そして、一人称でも三人称でも一番語られる頻度が高いのは、主人公の視点。そして物の感じ方。感情です。

すると、自然と主人公の思考が当然のように思えてきてしまう。感情移入をしてしまうんですね。

小説を面白いと思うためには、感情移入が必要なのですが、問題を解くためには冷静な視点が絶対に必要になってきます。そして、その冷静さを手に入れるためには、主人公の行動を他者の視点で見る必要があるんですね。

【感情移入せずに冷静な視点を持つ】

この人の思考に支配されてしまい、感情移入をしてしまうと主人公が行っていることが全て正当で、正しいことにのように思えてしまうのですが、そうすると興味も関心も無くなってしまうのが人間の不思議なところ。

やっていることが当然だと思う。ということは、主人公の行動が普通のことに感じてしまうんですね。で、普通の人にそんなに興味関心を私たちは抱かない=つまらない、に直結してしまう。

どこかしら良い意味でも悪い意味でも普通とはかけ離れているところに、私たちは興味関心を抱きます。けれど、初期の読解力で文学作品を読むと主人公が行っていることに気がつけなかったりするものです。そうして、読んでいるのに気付けず、スルーしてしまう人がとても多くなってしまう。

だから、少し一歩離れた状態で読むことを頭の片隅に置きましょう。小説の、物語の主人公になるようにキャラクターです。平凡に見えても、どこかしら不思議なところや異常な部分があるはず。能力がずば抜けて高かったり、極度の欠陥があったり、逆に人よりも過度に馬鹿で猪突猛進で正直すぎたり……山月記の李徴も過度にプライドが高すぎて、臆病すぎた性格でしたよね。

それを見抜くためには、没頭するよりも少し離れた視点が必要になります。「解らない」でひとくくりにするのではなく、観察力を鍛える訓練だととってみてください。

目標は探偵です。シャーロックでも、コナンでも、金田一でも誰でもいい。自分の中に、推理力を養わせてみてください。大丈夫。たとえ外れたとしても、人は死にません。(笑)大いに練習で失敗する。点数を取るために、一番必要なのは挑戦と失敗。そして改善です。改善をするためには、まず考えなければ始まらないのです。

【メロスは狂人?? メロスの行動を現代と照らし合わせてみる】

まず、主人公メロスの人物設定です。

メロスはイタリア人。そして、村の牧人です。政治なんか知らないと、冒頭できっぱり言ってます。笛を吹き、羊とともに過ごしてきたと。

で、たまたま用事があって訪れた街で、どことなーく皆が沈んでいるような気がする。

若い人を捕まえて聞いてみたら、無視された。

で、近くを歩いていたお爺さんに声を大きくして(つまり、脅して)訊いてみたら、細々と小声で話してくれた。

って、エピソードなんですが、ここだけでも、「ん?」って思いませんか?

小説を軽く読み飛ばしてしまうと全然気にならない部分ではあるんですが、情報を聞き出すためにメロスはお爺さんを捕まえて、語勢を強く(つまり、荒っぽい声で)両手でその身体を掴んで揺すぶって、質問を何回もしています。




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ちょーっと、考えてください。

老人というからには、大体60代くらいだと仮定して、メロスの年齢は明記されていませんが、16歳の妹がいる、ということと、一晩中走れる体力があることを加味すると、大体17歳から25歳ぐらいだと仮定できます。つまり、若者です。

その見知らぬ若者。多分メロスは牧人をしていたこともあって、身体は健康体でしょう。小柄だという表記はありません。

その20歳前後の若者が、通りがかりの通行人であるお爺さんを捕まえて、声を荒げて方を掴んで揺すりまくっている………冷静に考えたら、「お巡りさーんっっ!!」って叫びたい状況のような気が。

その後に、お爺さん。「低声(こごえ)で」と書いてあるのですが、それって王様の行いが怖くて喋らない、というよりは、目の前のメロスが怖かったんじゃ……とか、違うように読みとれたりします。

そして、お爺さんから手に入れた情報で、メロスは激怒します。王は人を沢山殺す、と訊いたんですね。

で、誰を殺したんだと訊くと……ほとんどが王の周辺の人々ばかり。王様、皇后という本文表記から、ちょっと解らないのですが(正しい組み合わせは、王ー王妃、皇帝ー皇后です)お爺さんが言い間違えたんだと思って、ローマ帝政時代と仮定します。そうすると、時代の幅が広くなってしまいますが、帝政時代。絶対権力者がいた時代の設定であることは間違いありません。

そうすると、身内の中での権力争いはほぼ日常茶飯事です。裏切り、暗殺、抹殺、陰謀。日本もそうですが、結構権力者の身内って非業の死を迎えている人が多いんですよね。

そして、身内だからと温情をかけ、国や政治が乱れていく、衰退の元になることも少なくない。だから、それを民衆にしっかりと公示し、処刑で殺している王は、少なくとも悪逆、暴虐の王とまでは、言えないのではないかと私には思えてなりません。

普通、王が人を沢山殺すとしたならば、帝政時代や王政時代は、民衆や奴隷の虐殺です。けれど、お爺さんの言葉からは、一切民衆を殺した、とは出てきていない。

賢臣のアキレスも殺された、と書いてありますが、それだって真実はどうだったかは、解らないのです。悪評を噂された権力者が、実は民衆に言論の自由を与えていた有能な人物だった、なんてことも歴史には数多くありますし、とっても人気者だった人が実は圧政を強いていたという例も、沢山あります。

派手な暮らしをしている者には、人質を差し出せ、という法令も華美を取り締まるためのものとしてはまっとうですし、それを否定したら江戸幕府がしていた参勤交代も同じことです。

命令を拒めば、十字架にかけられて殺される。王政では、当然のことですよね。どんな命令だったかも解らず、詳細は全く解りません。本当に噂だけです。

けれど、それでメロスは何をするのか。

激怒し、短剣を懐に入れたまま、「生かしておけぬ=殺す」と発言し、城に向かいます。

えーっと……

これを現代風に書き換えてみましょう。

田舎で農業に従事している二十歳の若者が、買い物のために東京に出てきた。めったにテレビでニュースも見ないけど、なんだか以前来た時よりも東京の街が暗い気がする。すれ違ったお爺さんを捕まえて、話してくれないからちょっと脅して訊きだしてみたら、どうやら総理大臣が内閣の閣僚、大臣たち。そして自分の家族が罪を犯したというので裁判所に送り、死刑判決を下されたらしい。警察の取り締まりが厳しくなって、色々煩くなった。ちょっとビジネスが当たったり、株で儲けたら税金を重くされる。(人質が現代では制度としてあり得ないので重税にしました)国の命令を拒んだら、刑務所に送られてしまう。

確かに、監視社会で息苦しい世の中になったんだなとは感じますが……あなたはそれで、ナイフを持って、首相官邸、もしくは国会議事堂に乗り込んで、「呆れた総理だ。生かしておけない。」って、思いますか? 更に、実行に移しますか?

更にメロスの危行は続きます。

今日の続きはまた明日。

ここまで読んで頂いてありがとうございました。

続きはこちら

小説読解 太宰治「走れメロス」その4~二項対立を読み取る~


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