文学の仕事 解説まとめと試験対策

文学の仕事

加藤周一さん著「文学の仕事」解説のまとめです。

全体の流れをざっくりと説明するので、試験前の確認などに使ってください。

ポイントになるのは、文学の目的、文学の力、そしてタイトルにもなっている文学の仕事です。

この三つをそれぞれ説明でき、三つの例示とつなげることができれば、試験対策はばっちりです。

けれど、この「目的・力・仕事の違い」が明確でない。例示の意味合いが解らない、という方は、そこを押さえればテスト対策になります。

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全体のまとめ

1~3段落

なぜ文学は必要なのか。それは、人生または社会の目的を定義するためです。

ここで、筆者は目的と手段を明確に分けています。

手段=知的・科学技術=役立つもの=けれど、目的は決めてくれない。
目的=自ら考えて生きていこうとすること=(※自己アイデンティティの確立)=人生の意味=文学が導いてくれるもの=けれど、役立つものではない。
(※この部分では書かれていませんが、分かりやすくするためにここに補足しました。)

この目的を達成するためには、情熱が必要になります。もちろん、この情熱は行動にうつせる情熱、ということです。

技術は知的活動ではありますが、情熱は与えてくれません。情熱を与えてくれるのもまた文学、ということになります。

簡単に例えると、目的地に行くために車を運転するとします。

目的=どう自分が人生を生きるか。また、どんな姿で生きていたいか、ということ。

では、そこに行くために必要なのは、手段と情熱です。

手段は車のハンドルやナビゲーション。情熱は車を動かすガソリンです。

進むためには情熱=ガソリンが必要になりますが、方向性がめちゃくちゃならば、いくら進んでも目的地には絶対にたどり着けません。情熱だけではだめ。手段だけでも進めない、と筆者が書いているのは、そのためです。目的地にたどり着くためには、その両方がバランスよく必要になる。
(※ナビやハンドルが、「あなたはこう生きるのが一番いいですよ」なんて教えてくれるわけがありませんからね。……まぁ、今後の未来でそれを教えてくれるAIが出てくる可能性も否定はしませんが……)

では、そもそもその目的。自己アイデンティティの確立とは、どうやって作り上げられるのか。それを説明するために、三つの例示を筆者は提示します。

4~5段落

一つ目の例示。孔子の牛の話です。

孔子と弟子たちの堂々巡りのような、禅問答のような例示ですが、言いたいことは次の二つ。

  • 自分がやりたいと思ったことをすぐ行動する。
  • 社会常識や理想論は行動をしない言い訳になるから、その「普通の考え」からいったん離れる必要ある。

その2つが、目的を達成するために必要だということです。

「そんなことをして何になるのだ」「役立たないではないか」という、一般的な論理です。

一見、これは正しそうに思えますし、それから自分のやりたいことが外れている場合、迷って「無駄だから」とやめてしまいそうになるかもしれない。けれども「やりたい=情熱」であり、それをやり続けるために必要なのが、「手段=技術」ということになります。

たとえば、自分の現実の偏差値とは程遠い大学に進学を希望したとします。話を分かりやすくするために、東大としておきます。よく、東大受験は「『東大を受験します』と公言することで、半分終わっている」という言葉がありますが、何故かというと、殆どが周囲に反対されるからです。「無理だ」「現実を見ろ」「お前の頭で分不相応」など、「常識」に押しつぶされそうになります。そして、行動しなくなってしまう。つまり、勉強をやめてしまうのです。

だから、目的を達成するために、社会常識からいったん離れ、解放され、目の前の実質的な行動=目の前の問題をどう解くか、どう考えるか、に集中して、行動し続けることだけが、目的を達成できる唯一の道だと、孔子は牛の例示で言っているわけです。

出発点に返る、とは、この東大受験では、「なぜ東大に行きたいと思ったのか」という原点に帰り、それを達成するために自分の実力を上げる行動をすぐ起こせ、と言いたいわけです。

6段落

二つ目の例示。アルバニア難民の少年を助ける、アンゲロプロスの自伝的な映画の例示です。

ここで言いたいことは、

  • 行動につなげるには、情熱が必要。
  • 情熱は、目の前にいる人の存在が必要。
  • 一人の存在が、全体に対しての働きかけの始まりだということ。

孔子の例示から繋がっているのは、「行動する」というキーポイント。目的を達成するためには、技術というハンドルさばきは必要になりますが、行動しなければ、達成も何もできるわけがありません。この「行動」を促すのが情熱であり、情熱をくれるきっかけになるのは、目の前に居る人の存在、だというのです。

先ほどの例示を続けてみましょう。

「東大に行きたい」と目的を決めました。
それを達成するために「行動」し続けるには、どうしても情熱=やる気の持続が不可欠です。では、どうやって人は「情熱」を抱き続けていることができるのか。やる気を持続できるのか。それは、「他者」の存在が必要になります。つまり、受験で言うのならば、仲間、ライバル、友達の存在です。東大受験の仲間だったり、励まし合う友達だったり、「あいつにだけは負けたくない」と思えるライバルだったり。遠い存在ではなく、ポイントは身近にいる、目の前に居る存在です。

なぜ「他者」が必要かというと、人間が社会性のある生き物で、自分の生きる意味ややりたいことの確立も、自分一人だけでは決めることができないからです。自分一人でいくら「東大に行きたい」と思っていても、誰にも言わずに一人で頑張っていると、どこか空しい気持ちがしてくるのは、受験で苦しんでいる人ならば理解できるのではないでしょうか。

「ああ、君はそういう理由で東大に行きたいんだ」「お前ならいける」「この前の模試の結果、良かったね!」

と、空しい気持ちにさいなまれていた時に、こんな声をかけられたらと、想像してみてください。頑張ろうと、素直に思えるのではないでしょうか。

この場合、クラス全員から声をかけられる必要はないはずです。誰か一人。たった一人、自分の行動を認めて「君は東大に行きたいんだね」と自分の意志と目的を理解し、証明してくれる一人がいれば、それだけで人は迷わずに進んでいけるのです。

7~14段落

三つ目の例示。最も長い例示であり、筆者の主張に直結する部分が関わってくる例示でもあります。木下順二さんの「巨匠」という芝居の例示です。

ここで言いたいことは、

  • 人間は社会的な存在であり、自身の誇りや存在証明も自分自身では定義できない。
  • 誰かの目と関わってはじめて、人は存在証明(=自己アイデンティティの確立)が可能となる。
  • 社会全体でも、目の前の一人であっても、自分以外の「誰か」に自己の存在を証明されることで人は生きる意味を見出すので、一人に認められたいと願うことは、全体に認められたいと願うことと根本的には同じである、ということ。

誰もが夢や希望、もっと俗な目的などもあるでしょう。けれど、それを胸に抱いた時、人はやはり誰かに話したいし、認めてほしいと願います。身近な人であればあるほど、認めてほしいと願うはずです。

この「一人の証人」が。「巨匠」の中で言うのならば、「この老人は昔俳優だった」と証明する人がいることで、この老人の人生に意味が与えられます。俳優として生きていきたい。俳優として死にたい、ということにも繋がるでしょう。書記として生きながらえるのではなく、俳優として死ぬ道を老人は自分で選んだのです。なぜなら、そうしたかったから。俳優として、生きていたかったから。

そして、「誰か」にとって俳優でありたかったということは、「全体」にとって俳優でありたかったことと、根本的には一緒です。自分以外の「他者」に認められたいという願望は、単数であろうが複数であろうが、違いはないからです。

だから、立証しようと必死になる。

証明してくれる「一人の証人」を大事にするのは、そのためです。

15~17段落

「巨匠」の中の老人にとって、自分の生命よりも大事なものは、「俳優としての誇り」であると、筆者は断言します。

人によってそれはさまざまでしょう。

孔子にとっては、「目の前の苦しんでいる牛を助けること」ですし、アンゲロプロスにとっては「アルバニア難民の少年の命を救うこと」であるし、老人にとっては「俳優としての誇り」です。

では、あなたにとっては、自分の生命より大事なものは「何」でしょうか?

常識に負けずに守り通して実際の行動につなげ、行動によって自己のアイデンティティを確立し、自分の生きる意味を「他者」に立証するもの。

「これをする(行動する)ために、私は生きているのだ」と言い切れるものです。

「えっ??」とためらう人が多いでしょう。明確に言い切れる人の方が、多分少ないと思います。そんなもの、考えたこともないと思うかもしれません。

だから「文学」があるのだと、筆者は語ります。

毎日の生活のなかで、そんな抽象的な問題はどうしても後に回されてしまいます。

今、これを読んでいる高校生たちの心境を語るのならば、「そんなことはどうでもいいから、解答教えて!!!」でしょう(笑)

だからこそ、仮の世界の中で。作られた創作の世界の中で、生きることに困難な世界状態を創り出し、極限に迫られた時に人は「何」を大事にするのか。どうやって生きることが、自分は好ましいと感じるのか。主人公の選択が好ましい場合や、逆におぞましい場合もあるでしょう。ありきたりな選択をする場合もあるし、理解できない暴挙をする主人公も、物語の中には存在します。

それによって、あなた(読者)がどう感じ、何を思い、そしてどうしたいと思うのか。

仮の世界であるからこそ、人の本質が浮き彫りになります。またそうなるように、文学者は書いています。その極限状態の世界を仮に体験することによって、自分がどうなりたいとあなたが感じ、考えるのか。

そういうふうに考えさせる力が、文学にはあると筆者は語っています。

だからこそ、文学者はその力を自覚して、語っていかなければならないのだと、ある意味読み手だけでなく、書き手の使命も同時に指摘しているのですね。

テスト対策

では、テスト対策です。

要約のまとめ方

まず、要約・要旨です。

必要なのは、冒頭と最後。例示の細かい部分はバッサリと切り落として、必要な部分だけを抽象で語ります。

と、言うことは

例示から引きずり出さなければならないのは、

  • 自己アイデンティティの確立には「行動」が何より大事。
  • 「行動」は目の前にある対象に向けて示されるものであり、立証されることが大事。
  • 文学者の使命は、人が生きる意味は情熱を伴った「行動」によってのみ示されることを自覚したうえで、語ることである。

そこに、文学の目的と手段、情熱の大切さを足します。

 

なので、要旨は

 

 

(※できれば、自分で一度書いてから確認してください)

「文学は、自ら考え生きていくことの意味を見出し、そこに人々を導く力があるので、人生や社会の目的を定義することができる。自己アイデンティティの確立には、正確な判断に基づいた手段と行動につながる情熱が必要であり、目の前の対象に向けて行動を起こすことによって、人の生きる意味が立証されていく。文学者はそのことを語ることが、使命である。」(163文字)

となります。

 

文学の力とは

ここでポイントになるのが、「文学の力」とタイトルの「文学の仕事」という、二つの言葉があることです。

この二つは明確に違うので、違いが分かるように書く訓練をしておくと、テスト対策になります。混同しないようにしましょう。

「殆ど一緒じゃないか」と思う人は、現代文で点が取れなくなります。筆者は、些細な言葉や単語の違いも、明確に計算して書いています。そこにきちんと気が配れるようになりましょう。そして、違いがあるということは、それが指し示すものも違いが出来るということです。

では、文学の力とは、何なのか。

ちなみに、「力=ものを動かす作用」です。

では、「文学が動かすことのできるものは、何なのか」と考えると、答えは簡単。

そう、「人」そのものです。

つまり、「人を導く力がある」と言っているわけです。

では、どのように人を導く力があるのか。

例示からここは引きずり出します。

それは、「行動すること」です。

「人を行動するように導く力がある」

さらにそこに足していきます。行動しない人たち。例示から考えると、行動しなかったのは孔子の弟子たちですね。彼らが振りかざしていたのは、何でしょうか? そう。理想論や常識です。つまり、行動しない言い訳に負けないように、というのが、足されます。

「行動しない言い訳になる理想論や常識に振り回されず、人を行動するように導く力がある」

そして、行動するための切っ掛けには、何が必要か。

そう。情熱であり、目の前の他者が必要になります。なぜかと言うと、その証人がいることで、自己のアイデンティティが確立するからです。

「行動しない言い訳になる理想論に振り回されず、人を行動するように促す情熱を引き出し、目の前の他者に対して状況や環境に流されずに働きかけることにより、自己のアイデンティティを確立できるように、導く力」

となります。

これが文学の力。模試などでの記述のテクニックにも使えるので、単純な文章に付け足す、という形を保ってください。このルールが守れれば、大きな減点に繋がることはまずないはずです。そして、本文のどこからもそのまま抜き出すことのできない文章でもあるので、自分で書けるように訓練しましょう。

文学の仕事とは

では、ラストです。

この「力」「能力」を使って、する「仕事」とは何でしょうか。

ちなみに、「仕事=成し遂げること」となります。

文学には、「人を導く力」がある。ならば、文学者は、それを使って、「人(=読者)に、自己のアイデンティティを状況や環境に負けずにしっかりと確立し、実際の行動につながるような情熱を抱かせる」ことを成し遂げる「使命(重大な務め・仕事)」があると、筆者は言いたいわけです。

 

たとえば、「みんなに幸せな人生を歩んでほしい」と文学者が思った時。

「こうなりたい」と読んだ人が思うような、理想的な姿を描きだすことで表現する人も居るでしょうし、「こんな風にはなりたくない」と目をそらしたくなるような、悲惨な状況を描き出すことも、手法としてあります。けれど、共通してあるのは、「こうしたい」「こうしよう」という明確な道筋を、人々に指し示し、考えさせる力が文学にはあります。だからこそ、多くの状況や環境、設定を創り出して、たくさんのことを読者に考えさせ、そして行動に移せる情熱を抱かせるように、文学者は作品を創らねばならない。それが文学(を作る文学者)の仕事だと、加藤さんは語っています。

 

解説は此処まで。

ぜひ、テスト対策に役立ててください。

ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。

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