漢文解説「狐虎の威を借る」ですが、(本文解説はこちら⇒漢文解説「狐虎の威を借る」) このお話は元となった故事があります。
【受験に出る漢文の特徴】
-春秋戦国時代の逸話が中心-
センター試験の漢文は多種多様な物が出題されますし、時代も古代から最後の王朝の清まで様々ですが、やはり人気が高いのは春秋戦国の逸話です。
教科書でも多く取り上げられている時代の文章なので、自然とそうなってしまうのが道理なんですね。けれど、最近はそれを敢えて外した出典も、時たま出てきます。
では、何故春秋戦国時代の文章が多いのか。
-王様がらみや覇権争いの物語-
春秋戦国時代は、戦乱の時代です。秦が中国を統一するまで、様々な国々。俗に言う戦国の七雄が隣国と争いを繰り返します。
まさに食うか食われるかの世界。
その争いが沢山行われていた時期と言うのは、選択を間違えると強国が一気にすたれていきます。そして、そう言う時は様々な人間ドラマや、物の道理、政治の真理。偉人たちの試行錯誤が為されていき、そのエピソードは人々の記憶に残るものが多くなってくるのです。
故事成語はそこから学んだ教訓の塊のようなお話ばかり。
-国同士の争いの物語-
民衆が望むものは、今も昔も変わりません。平和な社会です。
なので、争いの時期、というのは必然的に誰もかれもが「どうやったら平和になるのか」ということを考えます。というよりも、社会時代が苦にの行く末を考えなければ!!という空気に満ち満ちていたのですね。
となると、様々な考えを持った人たちが出てくるのも必然です。
孔子はこの時代の前半。春秋時代の人です。
国同士が争いを繰り返しているからこそ、「理想的な君主」=「君子」というものを語ることが多かったのでしょう。
人を導くこと。勉強すること、様々なジャンルに対しての一言が、とても重く感じられます。
孔子の言葉を集めた、論語の解説はこちら⇒
論語解説 「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず。」
論語解説 「学びて思はざれば則ち罔し。思ひて学ばざれば則ち殆ふし。」と。
-国内部の権力争いの物語-
話は国外との話にとどまりません。
戦乱が日常化する、と言うことは、国内でも競うように才能のある人たちが戦っているはずです。
主君に自分の意見を聞いてもらおう。自分の考えを採用してもらおうと、王様と話す内容は、とても多い。
今回の「狐虎の威を借る」もそんな国内で起こった、君主が有能な部下に対して嫉妬する話が元ネタとなっています。
【中国古代、戦国時代の楚】
-中国国土で一番南に位置する国-
楚にまつわる故事成語は多いです。
「四面楚歌」もその一つですが、それ以外にもたくさんこの楚にまつわるエピソードはとても多く、それらをまとめた「楚辞」すらあるぐらい。
それぐらい、歴史にかかわる部分が多かった強国。場所も南に位置し、豊かな国土と長江の恵みを受け、その土地を狙う北方の国々と争いが常に絶えなかった国でもあります。
有名な争いなどがあると、エピソードが残りやすいし、それほど人の話に出ることが多かったから、勝ったにしろ負けたにしろ、現代までエピソードが残っているんですね。
-強国「秦」に隣接し、常に緊張状態の強国-
その強国「楚」のライバルは、「秦」です。
多分、中学校で中国王朝の名前を全て覚えるのに、「もしもし亀よ」のフレーズで、「殷、周、秦、漢、三国、晋~♪」とメロディに乗せて覚えた人は多いと思うのですが、この、周と秦の間の、約550年間の前半を春秋、後半を戦国時代と言い、まとめて春秋戦国時代、と名付けられています。
中国故事は、この春秋戦国時代のものがとても多い。
そして、「秦」との様々なエピソードは、色んな書物に残っています。
勝手なイメージなんですが、「秦」って、ジャイアンだなぁ……と思います(笑)
力(軍隊)にまかせて、弱い国を強制的に従えさせる雰囲気、というか、そういうエピソードが本当に多いです。
それを、周囲の軍隊の力で負けている国々が、知力や情報戦略などで切り抜け、国を守ったり、戦って痛い目を見たり、戦い自体を回避する方法を思い付いたり、歴史的な資料として読んでいてもとても面白い逸話が沢山残っています。
この常に国の存在を脅かされている緊張状態が、豊かな人材発掘や、孔子に代表されるような理想的な君主とは。人を、国土を治めるために必要なものは何なのか、ということが、盛んに考えられ、それが書物に残っていきました。
ある意味、常時緊張状態だったからこそ、能力がフル回転で伸びて行った、とも言える時代。
現代の政治や、困難な状態を切り開くヒントが満載に残っています。
-傾国の主な理由-
けれど、成功例も多く書かれていると同時に、失敗例も沢山残っているのも、大きな特徴。
この失敗から学ぶ、という精神は本当に見習いたい部分ですよね。
特に、国が傾く。つまり、国が滅びてしまう切っ掛けになるエピソードは本当に多いです。
その中でも、王様に関するエピソードはとても多く、大概パターン化されています(笑)
そのパターンは、以下。
・王様や皇帝が美女に狂うパターン。(傾国の美女)
・王様が優秀な部下に嫉妬して、処刑してしまうパターン。
・基本的に政治が得意ではなく、無関心のパターン。
・王様、もしくは側近が無能なパターン。
今回の「狐虎の威を借る」のエピソードは、このパターンの2つ目。
王様が部下に嫉妬してしまうパターンです。
-優秀な部下を持った王の嫉妬-
王様なのに、何故部下に嫉妬するのか。
それは、実力の無い王ほど、優秀な部下に嫉妬をします。
何故ならば、有能な臣下たちは厳しい試験などを乗り越えて実力で今の地位を獲得していますが、対し王はどうでしょうか。
生まれが王家だっただけで、彼らは自分が今の地位についた時に、努力など何もありません。だからこそ、部下たちはこんな自分に付いてきてくれるのだろうかと、不安になってしまうんですね。
-楚の宣王(せんおう)と昭奚恤(しょうけいじゅつ)-
この楚の宣王もそうでした。
部下に、昭奚恤という有能な将軍がいます。けれど、他国からも、側近からも、聞こえてくるのは部下である昭奚恤が有能だという噂だけです。
そのような状態の中、宣王は不安になってしまいます。
自分よりも出来る人が来て、全てをやってしまうと、「俺の存在価値っていったい・・・王の子どもとして唯生まれただけで、自分で獲得しているものは何もないのに、と不安になってしまいます。
-臣下の巧みなたとえ話-
そして、そんな宣王の不安を解消してあげるために、この逸話を話すのです。
この部下さんは有能ですよね。リーダーが気落ちしている時に、勇気づけるよりも物語で語った方が説得力が上がると確信し、それを実行に移しました。
本当に、百獣(周辺の国々)が畏れていたのは、狐ではなく、その後ろにいる虎です。
だから、
虎=宣王
狐=昭奚恤
百獣=周辺の人々
を喩えているエピソードです。
本当に恐れられているのは、狐ではなく、虎。
つまり、自信を無くした王様を、ヨイショして褒め称えた話、なんですね。実際は(笑)
では、ここまで読んで頂いてありがとうございました。
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